橋下徹氏が破れた3つの要因


近年まれにみる大接戦となった大阪都構想住民投票。
なぜ橋下徹氏は敗れたのか、その要因を考えてみました。

大阪都構想が否決

 大阪市民の判断は「現状維持」だった。賛否が拮抗(きっこう)した今回の住民投票。市民は「大阪都構想」の設計図となる協定書を慎重に吟味し、大阪が変わるチャンスとリスクをてんびんに掛け、最後に橋下徹市長に「ノー」を突き付けた。

 住民投票への関心は高かった。市が4月に開いた住民説明会には3万を超す人が参加し、1300件の質問も寄せられた。市民による自主的な勉強会も各地で開かれ、酒場でも論議が交わされた。

出典 http://mainichi.jp/

大阪都構想が否決されました。近年まれにみる激戦で、まさに五分五分と言っていいレベルの接戦でしたが、民主主義では1票でも上回ればそれが全てですから、大阪都構想は敗北、従来の大阪市が存続することとなります。

大阪都構想の役割

ここで大阪都構想の是非を言ってもしょうがないですから、ざっくりとした説明に済ませますが、大阪市は東京で言う東京23区と同じような構造をしており、またそれと近いレベルの規模を持っています。
しかし、市でそれぞれの区を管轄しているわけで270万人という行政の単位としては大きすぎる規模になっています。
東京都の場合は、23区の区長をそれぞれ投票しますが、大阪市の場合は区長が市から出向してくるような形となっています。二重行政というのはまさにこのようなことで、それをもう少しバラバラにして単純化しようということです。

反対派の理由はずばり、それによって人員の削減や給料の低下が予想されるからです。今まで無駄な二重行政を行っていたわけですから、それに費やしていた費用は削減されます。どこから削減されるかというとそれは当然ながら公務員の人件費なのです。

反対派のとった策は完璧だった

反対派が正しいとも間違っているとも言いません。政策の是非については触れるつもりはありませんのでそちらは置いておきます。
しかしながら、反対派の住民投票での策は完璧でした。
実は反対派は政策の是非については一切触れませんでした。大阪都構想により二重行政が解消されるというシステム自体への指摘などはありませんでした。それに対してかかる費用や、手間の面ばかりに論点を集中させました。

これこそが、反対派の勝因です。
システム自体のあり方で言えば、二重行政を解消し民意が反映されやすく、また無駄な人件費などが撤廃される大阪都構想に対して反論の余地はありません。既得権益の防衛と揶揄される反対派に反論の余地はなかったことでしょう。

そこで、『今の住所がなくなる』『大阪市がなくなる』『(70歳以上の)市営バスのフリーパスがなくなる』といった面を前面に打ち出したわけです。大阪都構想の本筋は行政のシステムの改善ですから大阪市という地名がなくなるのはそれに伴った不可抗力であり、地名などの小さなアイデンティティが論点になってはならないはずですが、市民は細かい行政の構造なんて分からないし、市がなくなってしまうというアイデンティティの喪失を重く捉えたわけです。
反対派は徹底的に『どうあるべきか』ではなく、『どう感じるか』に焦点を当てました。

大阪市がなくなるのはなんか分からないし不便だし困るし不安だよね、というように。『よく分からない人は反対に入れてください』という訴えはまさにそれを表しています。
1つの投票に人間はそこまで思いを巡らしません。なんだかんだでその時の感情でものごとを済ませるものですから、そういった人間の性質に対してアプローチした反対派のやり方は完璧と言っていいでしょう。民主主義を非常によく理解した結果だと言えます。
では、なぜ橋下徹氏は負けたのか。その3つの要因を解説します。

1、大阪都構想反対派があまりに強大過ぎた

反対派は自民党、民主党、公明党、共産党などが名を連ねています。
それに対して賛成派は維新の党のみです。
政策の是非を問う投票ではありますが、政党の規模は当然大きく関係してくるわけで維新の党が戦わなければいけない相手はあまりに大きすぎました。それにかけた費用についても維新の党に対して圧倒的な財力と人員をもってして反対派は上回りました。その中でここまで拮抗させるというのはいかに橋下氏が政治家として力を持っているかというのを表しています。

過去にこれだけの差でこれだけの規模で行われた勝負があったでしょうか?
この構図のみを聞けば100人中100人が勝てっこないと意見を漏らすのではないでしょうか。それほどまでに今回の勝負は困難を極める戦いでした。
橋下氏の考える方向性は間違っていませんでしたが、それをどうにかして他の政党を巻き込む形で力を蓄えることができなかったのか。
おそらく橋下氏はそういった形でなく、自身の政治力でこの戦いに勝利したかったのでしょう。そういった形での妥協は考えていなかったはずです。

2、橋下氏のイメージ戦略をもう少し慎重にすべきだった

反対派の理由に、『橋下氏が嫌いだから』というものが多く連ねられています。
本来はそういった理由で投票結果を決めてしかるべきではないのですが、こういった理由での反対票は数多く存在しました。
白黒つける形を好む橋下氏は絶大な求心力を持つ一方で敵をつくりやすいきらいがあります。

彼自身の情熱があり、だからこそこうした大きな戦いを挑むことができたため、彼自身のそんな姿勢を批判することは間違ってもできませんが、維新の党でそうした方面へのサポートをしてしかるべきだったでしょう。
在特会の桜井氏とのやりとり、慰安婦問題への発言などは大きく票を落としたわけです。下記の点にも理由がありますが、女性の賛成票が少ないのはそうした点に原因があります。
そうしたフォローが行われていたら結果は違ったことと予想されます。

3、民主主義は弱者が票を動かす

政治というのは弱者を動かすものが制します。
経済的・精神的に余裕のある社会的強者よりも社会保障など政策によって恩恵を受ける弱者の方が過敏に反応します。
橋下氏は老人・女性という2つの弱者を取り込むことができませんでした。
最も効いたのが『(70歳以上の)市営バスのフリーパスの撤廃』をしてしまったこと。政策として社会福祉を削って財政の健全化を図るのは間違いではありませんが、大阪都構想成立後に行うべきではなかったでしょうか。『安易な社会福祉は将来的に財政を逼迫するのみである』という言い分は弱者には理解できません。そうした点を野放しにしてしまったことも反対派に対して反論の余地を与えることとなりました。

維新の党サイドで考えがあってこうしたアプローチとなっていた部分もあるでしょう。
ただし、今回に関しては有権者の政治への理解を高く見積もりすぎていたように思われてなりません。実際に大阪都構想について正しく理解していた人間は少なく、弱者を放置するイメージが強くなったのも事実です。

私だったら『大阪都構想』という名前にはしなかったでしょう。もう少し分かりやすく、また大阪が変わってしまう、大阪市がなくなってしまうという不安を抱かせることのないような説明の仕方に終始します。当然それも心得ていたのでしょうが伝わり切っていたとは言えません。
『大阪市をぶっ潰す』という発言は内容に理解のある人間ならば意図をくみ取れるものの、何もわからない人間からしたら不安を感じることでしょう。

民主主義を理解しつくした反対派が勝利した

結果として、『選挙』という勝負において、
反対派が『選挙』というゲームの特性を理解しつくし、勝利しました。
選挙は正しいものが勝つのではなく、そのルールの中で最適な戦略をとったものが勝つのですから、これは当然です。

橋下氏は近年では並ぶものがいないほどに求心力をもった政治家でした。
しかしながら、選挙というものにおいて長けているかと言われると微妙ではないでしょうか。
そうした点が差を分けた結果となりました。

この記事の続き、今後の政権については以下の記事から。
http://kigyo-ka.com/00129/