ファンドには種類があることを知ろう


村上ファンドで知られる村上世彰氏がまた逮捕された。
ファンドというもの自体が悪であるという錯覚を受けることもある今回の事件ではあるが、本来のファンドの役割と種類がることについて知らなくては理解は一向に進まないだろう。

ファンドとは悪者なのか

『物言う株主』として知られた村上ファンドの元代表村上世彰氏が11月25日株価操縦の疑いで逮捕された。2006年にはライブドアの事件に関与した形として逮捕されており、これで二度目の逮捕となる。
世間一般のイメージからすれば、『悪いことやって儲けているからこんな風になるんだよ』ということなのであろうが、ファンドというものが金の亡者とかただお金を稼ぐことしか頭にない悪者とされていることだろう。

実は、ファンドというものには種類があり、一概にファンドを否定することも肯定することもできない。またそれぞれの行っていることは異なるし社会に与える影響も利益の上げ方も異なる。そこで今回はおおまかに分けて4種類のファンドを紹介する。それぞれは株式などの保有時間によって分類されており、超短期、短期、長期、超長期というようになっている。その一つ一つについて説明していきたい。

1、ヘッジファンド(超短期型)

ファンドと言えばおそらく多くの人間はヘッジファンドを思い浮かべることが多いのではないだろうか。いわゆるザ・ファンドというのはこのヘッジファンドを指すだろう。投機的に短期間でトレードを繰り返すのがヘッジファンドの役割である。多くの外資系投資銀行、ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーなどがこのヘッジファンドの部門を持ち、自らの資産により投資を行う(投資銀行の基本的な役割は本来証券会社のそれである)。特に相場が大きく動く時にトレードを好んで行うことからそのイメージは激務でものすごく大きなリスクを背負い、その代わり大金を得るというようなものであろう。おおまかにその実像もそこまで違っていない。六本木ヒルズにオフィスをかまえるゴールドマンサックスの日本法人の社員は基本的に会社からタクシーで10分圏内に住むことが多いという。それほどに会社にいる時間が多いのだろう。

金融の中でも特にテクニカルと呼ばれるチャートの動きを見ながら取引を行うスタイルが多い(対になるのはファンダメンタルズと呼ばれる経済情勢や企業の成績を重視するスタイル)。アービトラージと呼ばれるような非常に複雑な数字の掛け合わせで利益を出すこともまたヘッジファンドの得意分野である。これらのヘッジファンドは毎年、毎月のように成績を出す必要があり、投資家(ヘッジファンドにお金を預ける者)からは厳しく見られることがあることからも非常に短期のトレードを行うことになる。

2、アクティビストファンド(短期型)

いわゆる『物言う株主』こそがアクティビストファンドである。投資家ではなく、株主の立場として会社の経営に積極的な提言を行うことからもこう呼ばれる。村上氏はこのアクティビストファンドに当てはまるだろう。村上ファンドの場合は財政的に余裕があり安定しているもののそこまで人気のない株を買い漁り多くの影響力を得た後に、株主として”短期的に利益の上がる事業に専念させたり配当を出させたり”して、株価が上がったころには売り抜くという方法が主流であった。株主に振り回された企業はその後低迷することも少なくはない。そうしたスタイルがアクティビストファンドである。

もちろん、ヘッジファンドほど短期間ではなくともある程度短期間での銘柄の保有を行い、特に『物言う』こともなく売却して利益を得るようなファンドもあるから全てがアクティビストファンドに当てはまるわけではないが、基本的にはこうした短期間での株価の上昇、営業成績の上昇を狙うファンドが多い。ちなみに今回の村上氏の逮捕はどちらかというとヘッジファンド的な動きをしたことに起因するとされている。

3、企業再生ファンド(長期型)

近年ではスカイマーク社に出資を行ったインテグラルが挙げられるだろう。スカイマーク社を例にとると、業績悪化にともなう財政悪化、それに止めを刺したのがエアバス社とのトラブルであった。そうして上場廃止になったスカイマーク社に対して投資を行ったのがインテグラルである(上場廃止=紙くずではないもののスカイマークの場合は民事再生法が適用されたため紙くずになった。ライブドアの場合は一定の価値が残った。)。このような企業再生ファンドはこうした形の企業に対して、もしくはもっとライトな業績不振に陥った企業の株式を購入しテコ入れを行う。その後業績が上がったのちに平常の価格で手放すという形になるだろうか。

業績回復までが終わった例としてはユニバーサルスタジオジャパンが挙げられるだろう。最大の株主は大阪市であったUSJであるが(本来第3セクターとして立ち上がった)、2010年にはゴールドマンサックスが完全に保有する形となり(厳密にはゴールドマンサックスの子会社SGインベストメンツ株式会社の子会社となった)、ハリーポッターのアトラクションなどで業績を復活させたUSJは今では主要株主に有限会社クレインホールディングスが就任している。(ゴールドマンサックスは株式を売却している状況。)

4、事業型ファンド(超長期型)

企業再生ファンドが基本的には短期的に状態が悪い企業を再生させることでキャピタルゲインを得るのに対し、事業型ファンドは基本的に買い取った会社や株式をあまり手放すことがない。その会社こそが最も優れているのだから売り抜く意味はないといった方針である。最も有名なのは世界的投資家ウォーレンバフェットが会長兼CEOを務めるバークシャーハサウェイ社であろう。同社は基本的に価値の高い会社を長期的に保有するスタイルを貫いている。基本的にこうした企業は持ち株会社と表現されることが多い。近年では、ソフトバンクやGoogleなどのIT企業は他の優れたIT企業を買収するケースが多い。ソフトバンクがアリババによって8兆円ほどの含み益を出したことは有名な話である。GoogleやFacebookなどは同社の事業に関連する企業を買収するケースも多いが、そうしたことによって多くのIT企業はファンド的な側面を持っているのも事実である。

また、その他のケースで言えば大企業から部門だけが独立してファンドに買収されるケースもある。例えば、ソニーからはパソコンの事業であるVAIOが独立した。現在は日本産業パートナーズが株式の95%を保有している。このように財政が思わしくない企業が比較的好調な部門を売却する場合、逆に採算のとれない部門を買収する場合もある。どちらも引き受け手はその部門のみでしっかりと採算をとろうとするし、売り手は売却によるキャピタルゲインで本業を立て直すことができる。ファンドであるものの事業会社と同じような認識でも問題ないほど実際に事業に関わることが多い。

ファンドが全て同じことをしているわけではない

また、近年名前を非常によく聞くベンチャーキャピタル
などはこうした中では少し特殊な分野であり、2番のアクティビストファンドにあたるが投資先を未上場のベンチャー企業に限定しているということである。ベンチャーキャピタルは通常のアクティビストファンド以上に経営に(特に上場に対して)、口を出すことが多いから場合によってはベンチャーキャピタルのせいで企業の業績が悪化したと言われることも多い。

このようにファンドは全てが同じではないし、特に全てのファンドが悪であるという決めつけをするのはもっての他であろう。様々な形で資金を市場に投下することによってリターンを得ているだけで本質的には一般的な事業会社と変わらないだろう。それが金銭的な面が大げさに現れているだけの話である。