メルカリの決算からアプリビジネスの本質を読み解く


ボタン

現在のIT企業のビジネスの本質というのは非常に似通っている。
メルカリの決算を見てみると、IT企業のビジネスの本質的な部分が見えてくるところが分かる。

メルカリの2015年6月期決算を振り返る

メルカリがヤフオクのアプリユーザー数を抜くも大きな壁

弊紙ではこの回でもメルカリについて扱いましたが、アプリユーザーにおいてはヤフオクを抜くなどメルカリはC2Cの市場では国内で最も伸びている、そして注目を浴びている企業およびサービスであると言っていいでしょう。まだサービスのリリースから3年ですからそれを考えたときにヤフオクという巨人と比べられること自体が相当にすごいことであることが分かります。

mercari-20156

そのメルカリの2015年6月期の決算が以上のような形になっています。売り上げは年間で42.3億円、粗利は39億円、そして年間で11億円の赤字となっています。これほどまでに高い粗利率にもかかわらず赤字を出したのは、50億円という販売管理費、つまりそれが示すのはCMなどの広告費ということになります。これがメルカリの第3期決算です。

これ自体はゲームアプリ、ニュースアプリ、その他のアプリについても言えることで基本的に広告戦略というのが非常にキーになってくるわけで、特に近年ではソーシャルゲームにおいてはスケール(事業の規模を拡大する)させるためにCMというものが欠かせません。

メルカリの粗利は39億円ではない?

mercari20156-1

ここで1つ気になる点があるのですが、メルカリの売り上げ原価が3億円程度で粗利が39億円になっているという部分です。粗利が39億円ということは売り上げ-商品原価が39億円ということ。例えばこれがレストランなら食材にかかる費用を売り上げから引いた金額にあたります。要するに、商品を売るごとに増える利益を積み重ねた金額がこれだということになります。

ある種だからどうしたという部分ではあるのですが、ここが意外に大事で、決算書を見る分には粗利がしっかりあれば今回のメルカリのようにたとえ赤字であっても販管費などのCMに代表される投資にあたる部分がなくなれば、つまり今後への投資をしなければ黒字に転換するから問題ないという考え方をするわけです。

では、CM分を除けばメルカリには39億円の黒字が流れ込むのかというとそれはなかなかに難しい話です。この売り上げ原価の3億円がメルカリにおける原価(サービスを提供するのに必要な仕入れ値)かというと、非常に大事な人件費が計上されていないからです。
メルカリの従業員数は2015年6月時で160名ですから、3億円を160人で等分すると200万円にも及びません。もし仮に半分がアルバイトだったとしてもアルバイトに50万円、正社員に350万円というのは少なすぎるように思えます。メルカリの決算書では人件費を販売管理費に計上しているものと予測されます。(多くの企業にとって人件費は販売管理費、固定費に計上するのが一般です。)

これ自体は普通のことですが、むしろ考えるべきは多くの自社サービスを展開するIT企業にとってかかるコストはそのほとんどが人件費であるということです。開発および維持にかかるコストのほとんどが人件費です。そのことからも人件費を除いた39億円が売り上げ-仕入れとして考えられるのもまた少し違う話になるでしょう。
160名に300万円ほどをかけた5億円程を抜いて34億円ほどを粗利として考えた方が自然です。それでもまた8割ほどの非常に高い粗利率であることには違いありませんが…

IT企業のコストおよびリターンは単純化できる

今回こうしたメルカリの決算を扱おうと思ったのは、今回のメルカリが現在のアプリをとりまくビジネスおよびIT企業のビジネスにおいて非常に普遍的なモデルケースと言えるからです。
この説明だけじゃわけが分からないので説明をもう少ししっかりとします。

ソーシャルゲーム、メルカリなどのフリマアプリ、そしてニュースアプリ(およびMERYなどのCGMのキュレーションアプリ)についてはほとんど同じ構造をとっていると考えて問題ないでしょう。そういった意味では現在のITベンチャーIPOバブルにおける企業群の評価もしやすくなるのではないかと思われます。

そのカラクリとは開発費という初期投資に対して、維持費(エンジニアの人件費)という毎月のコスト、そしてLTV-CPAが粗利という考え方です。これでも訳が分からないので次に進みます。

アプリビジネスにおける収益構造とは

先ほど挙げた数字の一つ一つをもう少しちゃんと丁寧に考えてみます。それぞれの用語をちゃんとしっかりと解説します。

アプリの初期投資

アプリを開発してサービスを完成させなくてはいけません。そしてアプリの開発には一般的に半年間~2,3年という期間を要するのが一般的です。それだけの人件費が当然初期費用としてかかります。

アプリの維持費

アプリにはその後の維持が必要になります。メンテナンスやサーバーサイドの管理など、当然必要になります。開発費ほどではありませんがそれには人件費がまたかかります。そしてこれは継続的にかかるコストになることも注意が必要です。メルカリの例においてはこれが現在の人件費となります。

LTV(Life Time Value)

CM戦略を考える際によく出てくるLTVとはなんでしょう。これはLife Time Valueの略であり、日本語で言うと生涯顧客価値になります。CMで獲得した1人の顧客、ユーザーあたりアプリをアンインストールするまでにいくらの売り上げをもたらしてくれるかということを考えます。例えば、ECサイトを5年利用してくれて月に1回1000円の買い物をしてくれるのならば、粗利率が30%として1000円×12ヶ月×5年×30%として18000円が生涯顧客価値です。全員がこんなに買い物をしてくれるわけがないので一般的に生涯顧客価値はこんなに多くはありません。

CPA(Cost Per Acquisition)

これもよく聞く言葉ですが、CPAとは日本語にして顧客獲得コストです。CMに10億円かけて200万人のユーザーを獲得したら顧客獲得コストが500円です。1人の顧客(ユーザー)を獲得するのにいくらかかるかという指標になります。

LTV-CPA

LTVからCPAを引いただけの指標です。もしもこれがマイナスであればCMにかける費用を回収することができず、CM戦略は失敗になります。最低限これをプラスにしないとCMをうつ意味がありません。もちろん、755のようにとりあえずユーザー獲得を目指してCMをうつ場合もありますが、基本的には採算が合っているかを計算します。

アプリのCM戦略はプラス-コスト=成果を積み重ねる

先ほどのような項目を用いていまいちどアプリの収益構造を考えます。
LTV-CPAがプラスであればなるたけそのCMを増やすことによってどんどん収益を上げることができます。メルカリのようにすぐにはCMの成果は収益にはなりませんから(少なくとも1,2年は考えるべきでしょう)、その間に負債はたまりますが回収の見込みは十分にあるということです。

もちろん、全てのアプリがCMありきなわけではありませんし、広告宣伝費を使わずに初期費用を回収できるくらいユーザーが集まるのが理想です。とはいえ、だいたいのアプリはそれがヒットするにつれてCMを用いてもっと収益を上げようとしますからLTV-CPAの概念は必ず出てきます。

例えば、CPAは一般的にアプリの場合は少ない方で300円~多いと1000円くらいになりますので、おおよその予測が立てやすい部分になります。対してLTVはもちろんサービスの質に依存しますからいくらと明確に言えなくても例えばメルカリならば3000円の買い物を一度してくれればそれだけで手数料の300円が入るというようにシンプルに予測を立てることができます。

VCがこうしたアプリビジネスに群がるわけ

例えばこれがソシャルゲームならば一般的にどれだけの課金が起こるかというのはおおまかに開発者は分かっています。さらにかかる開発費は5000万円程度ですから、おおよそ1億円くらい用意すればそれなりに数年は最低でも持つことが分かります。
CMをうつ以前の段階で宣伝広告費を使わずにも集まった顧客からLTVをある程度予測することができます。これ自体がIT企業の大きな強みになります。例えばLTVが1500円になると予想ができればCMに10億円投下すれば5億円のリターンが出るというようにおおまかな予測を立てることができます。

対して、LTVが500円にも満たなかったりするとこのままCMを展開すればするほどにマイナスになってしまうわけで、サービスの質自体を上げることに注力することになります。それでも全くヒットしなければ1億円かけたものがパーになって終わるというだけの話です。

だからこそ、ベンチャーキャピタルからするとこういったビジネスは非常に計算の立ちやすいものであり、人気が増えるわけです。ソーシャルゲームなどのCMが増える理由、そしてこういったアプリを主軸とするビジネスが増えるのにはこうした背景があります。そういった視点からサービスを見るとその現状がよく分かるではないでしょうか。