イギリスの産業構造を知らずにEU離脱問題は語れない


イギリスEU離脱の影響ははたしてどれだけあるだろうか。
それを考えるためにはイギリスの産業構造を知る必要がある。

イギリスEU離脱の影響は

イギリスがEUすることが決定的になったが、その影響ははたしてどれだけあるのだろうか。そしてそれによって得する国は企業は、反対に損するのはどこなのだろうか。経済的に懸念が大きいのは、EUを抜けることによりイギリスとEU諸国間での貿易が停滞することだ。イギリスはEU内で貿易赤字であり、EU諸国からするとお得意様であった。それがなくなるマイナスはイギリス以上に大きいだろう。

イギリスは実は製造業の割合が非常に低い国である。あまり知られていないが、金融業が引っ張る形の産業構造を持つ国となっている。就業者3374.4万人のうち製造業に従事するのは264.8万人であり割合は7.8%(日本は16.1%)に過ぎない。これに対して金融業は114.8万人であり3.4%(日本は2.5%)となっている。専門・科学技術のカテゴリには291.1万人で8.6%(日本は3.4%)が属する。このような技術者が多いのもまた特徴であるだろう。

非常にいいイギリスの経済状況

製造業の割合の低い産業構造から分かるように、イギリスにとって貿易はそこまで重要な数字ではない。イギリスを支えているのは金融と高い技術力である。イギリスに関しては大英帝国と謳われ世界一の地位を誇っていたところから停滞を続けた1980年代のイメージがあるが、イギリスの経済は金融という武器を得たことで大きな成長を遂げている。成長率は日本やEUの平均を大きく上回るパフォーマンスを示しており、アメリカに肉薄するほどだ。

また現状でも非常に経済状況は良く、1人当たりのGDPは2015年では4.4万ドルでアメリカの5.6万ドルには及ばないとはいえEUで最も経済的に成功を収めているドイツの4.1万ドルより高い。日本の3.2万ドルとは比べるまでもないほどの数字である。

金融に積極的なイギリス

イギリスの金融で面白いのは、イギリスの対外資産と対外負債はともに総額10兆ポンドほどあるという点である。これは、イギリスのGDPの5.5倍にも及ぶ。日本は対外資産はGDPの1.9倍であり、極めて大きいことがあるだろう。また、その構造も大きく異なる。日本の場合、貿易の黒字から徐々に蓄積された海外資産を運用しているだけであるが、イギリスの場合は積極的に資金を調達した上で投資に回している。外貨を多く保有していることで資金の仲介という役割も持っている。

また、イギリスロンドンの金融業務はアメリカやドイツの金融機関が大きな役割を担っている。国際間の資本の移動に関して人や物などのように制約はないため、EUを離脱したとしても大きな影響を受けることはないだろう。このことを考えるとイギリスがEUを抜けるデメリットは意外にも少ないのかもしれない。