小売業界の未来を左右する6つのITトレンドとは


テクノロジーの進歩によって消費者の購買行動は大きく変化しています。
かつて成功してきたビジネスモデルであっても、ビジネスの環境変化に適応することができない企業は淘汰されていきます。小売業界は、こうしたテクノロジーと消費者の変化を捉え、スピーディかつ柔軟に対応することを求められているでしょう。

オムニチャネル化

かつて、小売業界では店舗、ECサイト、電話通販などの販売チャネル間の連携はなくそれぞれが独立して別々に運営されていました。しかし、実店舗での買い物だけでなく、スマホやパソコンを使ってネットで買い物をするのが当たり前になっている現代では、消費者がいつでもどこでも商品の情報を得たり、購入できる仕組みが必要です。

オムニチャネルというのは、実店舗、ネット、モバイルなどあらゆるチャネルを統合し、消費者がどのチャネルからも同じように商品を探したり、購入できる状態を指します。セブンイレブンやイトーヨーカドーを運営するセブン&アイ・ホールディングスは他社に先駆けてオムニチャンネル化を進めてきました。約20000店の国内店舗とネットを融合させることで、商品を「調べる」「購入する」「受け取る」という一連の流れをいつでもどこでもできるようにしています。
例えば、ネットで注文した商品を送料無料で近くの店舗で受け取ることができます。消費者にとっては、好きな時に好きな場所で好きな商品を購入できる状態が一番便利です。オムニチャンネル化により、消費者の利便性を高めることで顧客満足度をあげ、商品を何度も購入してくれるリピーターが増える可能性が高くなります。

一方で、最近ではオンラインに特化していたEC企業が新たな販売チャネルとして、実店舗を開くというケースも次々出てきています。例えば、amazonはポップアップストアを開いたり、シアトルに大型書店「Amaozon Books」をオープンしたりしています。さらに、2016年10月にはアメリカ全土で生鮮食料品を取り扱うスーパーマーケットの2000店舗の出店を検討していることが判明しています。
他の小売業者の実店舗との違いとして挙げられるのが、EC企業はオンラインで得たデータを元に実店舗を作ることができ、効率的な運営が可能であるという点です。例えば、ECサイトで人気の商品を中心に店舗で販売すれば、スペースが限られている店舗の空間を効率的に活用できます。
スマートフォンの普及によって、消費者は自分の好きなように買い物を楽しめるというのが当たり前になっています。実店舗を展開する小売企業とネット通販のEC企業という境目はなくなり、あらゆるチャネルで消費者に快適な買い物体験を提供することが求められるでしょう。

ロボットによる接客

小売店では人工知能を搭載した接客をするロボットを導入する店舗が増えています。
豊富な商品知識や接客のノウハウを搭載したロボットであれば、顧客の集客から商品の提案までの一連の作業をこなすことができるので、人手不足などの経営課題を解決できます。

例えば、家電量販店のヤマダ電機では、IBMの人工知能「Watson」を搭載したソフトバンクの「Pepper」を店舗に導入しています。ヤマダ電機の営業ノウハウをWatsonに組み込み、年齢、性別、感情などの顧客情報を収集し、最適な接客プランのもとコミュニーケーションをとることができます。接客した顧客の数が増えれば増えるほど、Pepperが収集した顧客の反応や属性などのデータが増え、そのデータを分析すれば、新たなサービスの創出や業務改善に繋げることができます。

このように、ロボットは完全に人の代わりになるわけではないものの、学習機能やデータ分析に優れているロボットにしか提供できない価値は計り知れないものがあります。今まではその物珍しさゆえに客寄せとして役割が大きかったロボットですが新たな価値を生むツールとして社会に溶け込んでいくでしょう。

BeaconやRFID等のIoT活用

街を歩いて店舗の前を通ったら、過去の購入履歴に基づいたおすすめ商品をプッシュ通知でスマートフォンへレコメンドしてくれる。
Beacon技術を活用すればそんなことが可能になります。Beaconとは、Bluetooth Low Energyを利用した位置特定技術で、GPSとは違って電波が届かない屋内でも位置情報を把握することができるのが特徴です。

Beaconを活用した取り組みは、アメリカの小売業界を中心に進んでいます。例えば、400店舗以上を展開するアメリカ大手百貨店チェーンMacyʼsは各店舗に4000台以上のBeacon端末を設置しています。消費者は、スマートフォンを持って来店したり商品に近づくだけで、専用アプリが自動的に起動し、商品情報やクーポンが配信されます。このように、Beaconを導入すれば、消費者の位置に合わせて最適な情報を発信できるので消費者の利便性が向上します。また、消費者がその情報にどう反応したかというデータを蓄積することもできます。

他のIoTの活用事例として、電波を使って商品を自動的に識別できるRFIDタグが挙げられます。アパレル大手「BEAMS(ビームス)」ではRFIDタグを利用した商品管理システムを導入しています。バーコードによる商品管理では一つ一つの商品をバーコードで確認する必要がありましたが、RFIDタグを搭載した商品は直接触れなくても一括で確認できるため、棚卸しや会計作業のスピードが大幅に上がります。
さらに、RFIDタグを活用すれば、消費者自身が会計作業を行うセルフレジの導入が可能になります。ファーストリテイリング傘下の「ジーユー(GU)」ではセルフレジ化が進んでいます。レジ備え付けのボックスに商品を入れると、自動で精算することができます。
今後はIoTを活用して、物流や販売プロセスが効率化され、コスト削減やデータの収集がさらに進んでいくことでしょう。

モバイル決済によるキャッシュレス化

日本では、2020年に向けてキャッシュレス化が進められていますが、まだまだ現金主義が根強く残っているのが現状です。キャッシュレスが進んでいる欧米を始めとする先進国では、モバイル決済サービスが注目を集めています。モバイル決済とは、クレジットカードの情報を専用のアプリに登録することで、スマートフォンだけで決済できるサービスを指します。何枚ものカードや現金を入れた財布を持ち歩く必要はなくなります。

さらに、顔や指紋などで個人を識別できる生体認証で決済するサービスも広がりつつあります。例えば、今年2月に広島銀行では顔認証による決済を試行しました。顔認証は、偽造が難しく、紛失することもない便利かつ安全な決済方法です。
モバイル決済、生体認証による決済など様々な決済方法がこれから普及することでしょう。その際に入店したお店が便利な決済システムに対応できていなければ、消費者は逃げてしまいます。小売店は新しい決済システムを導入し、消費者が不便なく買い物をできる環境を整える必要があるでしょう。

配送競争の激化

オンライン販売を行う小売業者は、迅速かつ効率的な配送が求められています。消費者からすると、”注文したその日か次の日には商品が届くのは当たり前、送料無料も当たり前”という時代になりつつあるのです。

Amazonでは、プライム会員に登録すれば1時間以内に注文した商品が届く「Amazon Prime Now」を提供しています。さらに、普通の配送であれば送料は無料になっています。これに追随するように、ヨドバシカメラでは都内23区を対象に最短2時間30分以内に配送するサービスを開始するなど、どの企業も配送スピードにしのぎを削っています。
このようにできるだけ早く、安くという消費者のニーズに応えながら、安定した利益を上げるのは簡単ではありません。競争が激化する小売業界で勝ち残っていくためには、スピーディで効率的な配送システムを構築する必要があります。

人工知能(AI)の活躍

人工知能は、人間よりも処理できるよりも大量のデータを迅速に分析し、最適解を導くことが得意です。ロボットや自動運転など様々な分野で活躍が期待されるAIですが、小売業界においても果たす役割は大きいと言われています。
実店舗であれば、従業員が顧客のニーズを詳細に聞きだして、相談に応じながら、顧客に合った商品を提案するといった柔軟な対応が可能です。しかし、双方向のコミュニケーションを取ることが難しいECサイトにおいては、質問を受けつつ顧客の細かいニーズを把握して最適な提案をすることはできませんでした。人工知能を活用すれば、消費者の要望を聞き出す、最適な商品を提案するといったことが可能になります。

例えば、最近ではチャットBotサービスが流行しています。チャットBotとは、入力されたテキストを解析し適切な返答できる、消費者とのコミュニケーションを自動化できるサービスです。これを活用すれば、オンライン上においても、顧客の質問に答える、会話をしながら商品を提案するといったカスタマーサポートが可能です。カスタマーサポートの場合、利用シーンが限られており会話がパターン化できるため、顧客からの会話に対しても適切な対応ができるのです。

また、顧客データを分析することで一人一人に合った最適な商品をレコメンドする人工知能のサービスの開発が進んでいます。例えば、SENSYというファッションアプリはユーザーのファッションセンスを学習し、好みにあった服をレコメンドしてくれるアプリです。ユーザーのデータを学習すればするほど、レコメンドの精度が向上し、ユーザーにとってより最適な商品を提案することができるようになります。
現状では、人工知能を活用できるフィールドは、定型化された文章を返したり、過去のデータから商品をレコメンドするといった従来、人間が行ってきた作業を多少効率化するという程度です。しかし、今後は人工知能が活躍できる領域は広がり、さらに実用化が進むと、人工知能を適切に運用することに加え、人間にしか提供できない価値というのがより求められるようになるでしょう。

人間にしかできない仕事が必須に

テクノロジーが進歩すると、消費者の行動は変化しますし、それに応じて最適なサービスの提供方法も変わります。スマートフォンが普及することで、インターネットの利用はモバイルが中心となり、小売業者はソーシャルメディアを活用したり、専用のアプリを開発するなど消費者との接し方が変化しました。そして、今後はロボットや人工知能等の活用によって、誰でもできる単純作業というのは代替されていきます。

もちろん、機械に単純作業を任せることで今まで人間が行ってきた仕事が失くなりますが、人間にしか提供できない付加価値が高い仕事が重要になってきます。例えば、お店が収集できるデータ量は膨大に増加していますが、それらのデータを分析し、正しい打ち手を立案、実行するという仕事はより重要になるでしょう。
近年は著しいテクノロジーの進歩により、小売業者はスピーディな変化を求められていますが、いずれにせよ様々なツールを活用しながら、消費者のことを考え、より良いサービスを提供するという本質は変わらないでしょう。