今ある個人間決済サービスは全滅すると断言できる


決済サービスはスタートアップの大きな関心です。
特にその中でも増えているのが個人間の決済ですが、その可能性はどのようなものでしょうか。多くのサービスがあるものの、既存の個人間決済サービスは全てうまくいかないでしょう。その理由と背景を解説します。

決済サービスが大流行

決済サービスが増えています。その中でも特にコンシューマー寄りの個人間決済のサービスがここ最近で続々とリリースされています。このエントリーはそういった個人間決済サービスを否定する者なので具体名は出しませんが、顔ぶれを見る限り、業界全体としてそれなりの期待をともなって投資額もかなり大きくなっていると思われます(企業内のリソースなど含めて)。

この国のFinTechに限界があるそのわけ

この記事でも述べたように、私はそもそも決済サービス自体にあまり将来性を感じていません。当然市場そのものは伸びるでしょうが、FinTechの本丸は銀行そして保険だと考えています。決済については特にコモディティ化が進み(例えば、ECサイトからしたら決済手数料が低い方に簡単に移る可能性があります。サービスが簡単で導入が簡単であればあるほどそれが顕著になります。)、厳しくなるのではないかと考えています。

私がECサイトを運営していてクレジット決済を導入しようと思ったら、そこで決済だけできるよりは、決済含め顧客の分析などを行ってくれるツールの方が便利です。そうしたデータなど諸々が伴っているのであれば手数料が高いなどの理由で簡単に変えようとは思わないでしょう。決済そのものがメインになるサービスがどれだけうまくスケールするかについては疑問です。

そういった意味ではコンシューマーの決済(Apple Payなど含む)の方がスイッチングコスト(大きければ大きいほど他社のサービスに乗り換えにくい)が大きいかもしれません。Instagramより綺麗に写真がアップできるサービスがあってもユーザーはそう簡単に乗り換えませんしネットワーク効果がある分競争優位性を保てるという可能性はあります。

世界的には個人間送金の成功事例が

私が全滅すると考えているのは現存する日本の個人間送金サービスです。海外ではうまくいっているケースも事実として存在します。そういう意味では個人間決済は可能性としては十分あるでしょう。
世界的に見ても個人間送金で成功しているケースはWeChatとVenmoくらいです。

しかし、それぞれのサービスを見るとWeChatとVenmoが成功しているからといってそれがイコール日本でもうまくいくよ!という風に受け取ることはできないことが分かります。

WeChat

wechat

WeChatは、主に中華圏で使われているメッセージアプリです。日本でいうLINEにあたります。中国は海外のサービスが規制されている(種類によります)こともあってメッセンジャーとしては圧倒的に進んでいます。そして、メッセンジャーとして最もビジネスに成功しているのもWeChatです。

WeChat Payというサービスでは、個人間送金が可能で、割り勘などをメッセンジャーを通して行うことがすでに一般的になっています。WeChatを利用していない中国人はほぼいないので問題なくやりとりができます。
ソーシャルバイヤーと呼ばれる、SNSを通して商品を販売する(主に海外製品などを仕入れてきて売る)人々がいて、彼らはWeChatで顧客とのやりとりをします。個人間送金が容易なためECサイトを必要としないのです。

日本で考えればLINE Payがすごい普及してみんな使っていて生活の中に浸透していると捉えれば早いです。

Venmo

venmo

Venmoは個人間送金のためのサービスです。年間の取扱高は100億ドルを超えるペースで推移しており、アメリカの若者にすでに浸透していると言っていいでしょう。Paypalの傘下の企業が提供しており、親会社とカニバる(顧客を取り合う)ようなサービスが平気で出てくる点は面白いところです。

このVenmoの利用シーンはやはり割り勘が多いようなのですが、普及した理由は、単純に個人間送金が便利であるからではありません。Venmoはソーシャルストリームという要素を含んでいることが普及の理由だと言えるでしょう。Venmoでは、タイムラインに”金銭の支払いややり取りの情報”が流れてくる(金額は隠されている)。そのことによって、友達が誰と集まってパーティしたとかご飯にいったとかいう情報が流れてきます。

金銭の支払いは通常隠したくなることなはずですが、それを利用してFacebookやInstagramではできないソーシャルな空間が生まれたのは逆転の発想とも言えるのではないでしょうか。銀行口座とSMSでメッセージを受け取るための電話番号のみあれば利用できる点も優れています。

日本の個人間決済と海外の成功事例は違う

この2つのサービスの事例を考えるとたしかに個人間送金は普及しており、十分に可能性があるように考えられます。
しかし、WeChatは中国でほぼ100%のシェアを誇るメッセンジャーで、Venmoはただの決済サービスではなくソーシャルな要素を持ったそれであるわけです。『海外で個人間送金がスケールしてるっぽいから日本でもいける!』と考えるのはあまりに薄っぺらいと言えるでしょう。

日本では、LINE Payがうまくいっていません。LINEはみんな利用しているのにそれでも個人間送金は一般的にはならないわけです。
では、他のプレーヤーがそのまま普通にやってLINE Payより上の成績を残せるかといったらそんなことはないでしょう。LINE Payですらうまくいかない日本では消費者のハードルを下げるために何かしらの工夫が必要なのは自明です。

既存の個人間送金プレーヤーの長所は?

では、既存の個人間送金プレーヤーにそうした工夫があるかというと疑問です。WeChatやLINEのように全ての人が使うプラットフォーム上でもないし、Venmoのように新たなソーシャルな空間を提供しているわけでもない。

そもそも、個人間送金が使われるシーンってどこでしょうか?
WeChatやVenmoがそうであるように、割り勘をする状況がほとんどでしょう。

みんなで割り勘をするわけですよね?
じゃあそのときに全員がサービスに登録していないと利用ができないわけです。もしかしたら支払いをする幹事ともう1人がアプリをダウンロードしていたら1人分の支払いは電子化できるかもしれません。それって本当に便利ですか?わざわざ割り勘のためにアプリをダウンロードするのでしょうか?

今あるサービスは見た限りは銀行口座からチャージしたりクレジットカードによる決済を行うことで送金を実現するようになっています。サービスによっては”現在は”手数料無料なものもありますが、将来的には当然手数料が発生するでしょう。その手数料は誰が払うのでしょうか?通常のクレジットカードは店舗がその負担を行っています。商売ですから天秤にかけて導入したりしなかったりするでしょうが、消費者は手数料を払うくらいなら現金でいいと考えるのではないでしょうか。

個人間送金では手数料という壁がある

実は、私は2年ほど前にこうした割り勘のシーンも含むサービスを検討したことがあります。そもそものきっかけとしては社員がプライベートのプロジェクトとして300人ほどの単位でイベントを行う際にチケットの手売りを強いられていて、チケットのやりとりがあまりにアナログなので電子化しようというところからです。

アイディアとしては、チケットをアプリ上で発行してそれを購入すると電子チケットが手に入るという仕組みです。イベントの入り口ではチケットのQRを読み込むことでアプリ上で来場者数などを管理することができます。これを飲み会などのシーンでも応用すれば幹事が発行した支払いをアプリ上で済ませることができます。支払いのシーンを割り勘に限定すれば骨子としては個人間送金のサービスと同じだと言えるでしょう。

しかし、実現しなかった最大の理由としてはクレジットによる決済における手数料の存在です。ビジネスシーンであれば成り立つものの、友達との飲み会であればそこに手数料が存在することを受け入れられるだけのインセンティブがどうしてもひねり出せないことでした。
銀行口座からそのまま引き落とす形式にすれば手数料をゼロにできるかもしれません。それはそれでレガシーな日本の仕組みの中では難しいことであるでしょう。

よりスマートな方法があるはず

そもそも割り勘を電子的に行えるってそんなに優れたことでしょうか?
結局のところ幹事がまとめて支払いをしてその後個々でやりとりをするわけですよね。あまりに本質的でないし、スマートな方法とはお世辞にも言えないのではないでしょうか。

私が支払いを電子化したいという方向で何がベストであるかを模索したならば、レジというものの存在をなくす方向から考えます。レジがあるから割り勘するにも誰かがまとめて払わなければいけないし、そこで手間がかかるのではないでしょうか。
テーブルの上のタブレットなどの端末(もしく伝票)でQRコードを出して、そこで全員がテーブルの上で決済をすればそれが最もスマートな気がします。レジに並んで店員と向かって誰かがまとめて払わなければいけないという仕組みそのものがあまりにアナログです。

とはいえ、そうなればApple Payなどのプラットフォームを抑えた決済サービスが圧倒的に便利になりますが、そもそも私は決済の性質がそちら側にあると考えています。決済そのものは別に楽しいものでもないし、何か付加価値を求めるものでもないしできる限り簡素化したいものです。ならばプラットフォームにくっついていてついでに機能が備わっているようなものである方が自然であるように感じます。

買物をするのはだいたい1つか2つのところ

ECという市場は非常に大きな市場です。様々なプレーヤーが存在し、様々な商品を買うことができます。
では、EC市場におけるプレーヤーはどれだけいるでしょうか?世界的に見ればamazon、アリババ(タオバオ)、楽天など勝者となっているのは限られた存在です。たしかにメルカリなどのまた別のジャンルも存在しますが、では1人が3つのECサイトを定期的に利用するかというとそれはあまり考えられません。

Amazonだけ使う人、楽天だけ使う人、それらと別にZOZOTOWNも併せて使う人。いてもこのくらいではないでしょうか。要するに消費者は(インターネット上の)どこで物を買うかできる限り1つにまとめたいというわけです。C2Cのメルカリなど体験の種類が違うものはあるとしても、いちいち色んなところで物を買うのは登録など面倒だからです。
日用品ならこのサイトが、家電ならこのサイトが、たしかにそっちの方がamazonより便利なのかもしれません。でも、消費者は面倒だからamazonで全部済ませるわけです。

FinTechおよびコンシューマーの金融というジャンルにおいても同じことが言えるのではないでしょうか。
少なくとも決済なら1つのアプリだけにしたいものです。もっと言えば、銀行口座の管理や普段のレシートなどの整理、決済など全てまとめて処理をしたいものです。お金のやりとりというのはそれら全てがつながっています。
そういう意味では、ある特定の決済など利用シーンを絞れば絞るほどユーザーにとっての価値は小さくなることが想像され、最終的にFinTech(コンシューマー分野)で勝ち残るのはamazonのようなプレーヤーになると考えています。

FinTechはリスクを背負ったものが勝つ

amazonはインターネットビジネスでは本来必要ないはずの倉庫をあえて作ったことによって物流という他社の届かない領域を作りました。楽天は銀行、クレジットカードなど楽天ポイントを中心とした”どうせなら(ポイントつくし)楽天で買うか”と中高年を取り込みました(ポイントがもったいないためスイッチングコストが高くなります)。

物を買うだけならコモディティなサービスですが(だいたいのものは他のサイトでも買えます)、こうしたリスクをかけながら他社の入れない領域を作ったことで今の地位があるわけです。特にamazonはなんでIT企業が倉庫なんて在庫リスクにコストも大きくかかるものを作るんだとバカにされ続けましたが、今のamazonをここまで引き上げたのはその倉庫によって圧倒的な物流の仕組みを作ったことです。

決済(コンシューマー)においても同様のことが起こるのではないかと考えています。ただ個人間送金をするだけなら多くのサービスが提供をしています。では、そうしたリスクを負って消費者に圧倒的な便利さを提供しているプレーヤーはいるでしょうか。
決済がただできるだけでなく、そもそも銀行を作ってしまって口座を直接利用して決済がすぐにできるようになれば消費者は口座を中心としてアプリ上で全て把握できます(今いくらあるのか、今月いくら使ったのか、何にいくら使ったのかなど)。わざわざ決済だけのためにアプリ、だけでなく個人情報の認証が必要なのは面倒なわけです。

そういう意味では、楽天は実はFinTechプレーヤーとして大きな可能性を持っているかもしれません。楽天銀行からそのまま引き落とされる仕組みなら日本人の『クレジットだと使いすぎるかもしれない』という不安も払拭されます。
銀行口座を管理する仕組みと決済をする仕組み(楽天ペイなど)をまとめて管理できるようになります。楽天ポイントはあらゆる場所で使うことが出来て特に中高年の世代にとっては魅力的です。