職のリスクと流動性


起業にともなうとされるリスク。
はたしてそのリスクというのは本当にあるのか、その程度は。はたしてどう捉えるべきなのか。

起業とリスク

起業という言葉には常に”リスク”という言葉がまるで一心同体のようについて語られる。そもそも、リスクという言葉の定義自体が往々にしてあいまいであるのだが(機会損出など含めると全ての選択、行動、状況にリスクは存在する)、今回のリスクは現状を基準とした損出について考える。つまり、これだけの可能性があったのに何も得られなかった!というものをリスクとは考えないでおく。

さて、起業は必ずリスクなのだろうか。もちろん、リスクである可能性が高い。全く金銭的不安なくという意味ならば土日のみでの週末起業くらいしか可能性がない(もしくは週3,4日でまともに就職したのと同じくらいの賃金を得るしかない。)。例えば、ユニクロなどは週4日×10時間の労働で週5日の労働と同じ対価を得られる形が存在するから3日も週末起業に充てられることになる。
こうした形であればリスクではないのではないだろうか。過労で体力を消耗するリスクくらいの話で、もしも休日出勤を求められたら泣く泣く週末起業の方はスケジュールをキャンセルするなりすればいいだろう。そうすれば”ほぼ”リスクはなくなる。

会社員はノーリスクなのか

では、会社員はノーリスクなのだろうかという当然の疑問である。当たり前の話ではあるがリスクは存在する。リストラは近年増えているしそもそも企業は潰れるかもしれない。人間関係の問題で続けていけないくらい辛い思いをするかもしれない。ハラスメントにあったらどうだろう、訴訟でもすれば勝てる見込みはあるがそれでも微々たるお金と引き換えに職を失う。リストラされたらもうずっとアルバイト生活になるかもしれない。
そんなことを言う人間もいることではあるが、客観的に見た時に確実に起業よりはそういった状況になる確率は低いだろう。要因は色々あるのだけれども起業してずっと順調な確率よりも一度ついた職につき続ける確率の方が高いのは明らかだ。

とはいえ、『会社員も起業もどっちもリスクはあるんだから一緒だよ』とかいう根性論のようなことを述べるわけではない。そのような起業家に限って実際経営に関するリスクマネジメントができていないことが多く、肝が据わっているというよりはただの能天気である場合が多い。

起業、会社員、リスクのその後

よく思うのだが、リスクリスクというのはいいのだが、リスク=ゲームオーバーになっていて、その最悪の展開(起業なら廃業、会社員ならリストラ)のその後については全く考慮されていない場合が多い。経営者をやめた人間にも会社をやめた人間にもその後の人生がある。
廃業した人間はまた会社を経営するか、会社員として就活する選択肢があるし、会社をやめたら次の会社を探すかそれとも経営者になってしまう選択肢がある。その後どうなるかについても十分に考える必要があるだろう。

一番肝心なのは、起業と会社員そのどちらについても今の地位を失った時に雇用先を見つけることができるかという話ではないだろうか。
”会社員が最もリスクがなくていい!”というのなら、起業して失敗してもすぐに就職できるのならばそれはノーリスクと言っていいのではないだろうか。要するに流動性があるかどうかである。会社員がいくら安定だといってももしそこをクビになったらどこにも就職できる見込みがないようであればそれは非常にリスクが高い。可能性でなく程度として”この職を失ったら終わり”というリスクの高さである。

その職に流動性はあるのか

では、”会社を畳んだ人間”と”会社員をクビになった(もしくは前向きな理由ではなく自主退職した)人間”のどちらがいい待遇で、もしくはすぐに就職できるのだろうか。(その後起業の選択肢もあるがそれは除くとする。)
もちろん状況や個人差にもよるだろう。一概に言えない部分ではあるが、一般的には元経営者の方が市場から人材として高く評価されている傾向にある。

問題はそれまでにしてきた仕事の違いであり、会社員というのは一般的にその会社内でのルールにのっとった仕事で大企業であればあるほど限定的な範囲の狭い仕事であるのが基本であるから外でなかなか通用しない。経営者はそんなことを言ってられず全ての仕事に対して精通することが求められるためタスクも多く能力的に評価されやすい。
たしかに就職先を探すハメになる可能性が高いのは経営者であるかもしれないが会社員の方がそうなったときに大変なのかもしれない。

一概にリスクがあるないの関係だけで考えるのではなく、その後も含めて考えるべきではないだろうか。起業を勧めるわけでもなく否定するわけでもない。会社員にしても同様である。それにしても会社員というのはひとくくりに楽で安定なものでありある意味では美化されすぎなきらいを感じる。