”IT業界”は10年以内になくなる


IT企業ははたしてこの世にどのくらいあるのだろうか。
ものすごい数の企業がその名を掲げているように思える。しかしながら、IT業界自体は今後10年以内になくなるだろう。

”IT業界”という言葉の不思議

IT企業という言葉、言い回しをよく見ることだと思う。ITつまりはInformation Technologyということは情報に関する技術を扱う企業という意味である。たしかに多くの企業がIT企業に分類されていることだと思う。ネット上で商売する企業なんかはそのほとんどがIT企業と呼ばれることも多い。

ところが、IT産業の市場規模というのはおおよそ14兆円と言われている。これは銀行よりも少ない数字である。これだけIT企業が多く登場する中で実に小さい数字だと言わざるを得ないのではないだろうか。それにはわけがあって、ITという言葉の範囲があまりに不明瞭であるからだ。
ITとは情報を指すのであろうが、今やネット上で商売をしていない企業の方が難しいことだろう。銀行だってネットバンキングがある。じゃあ三菱UFJフィナンシャルグループはIT企業なのかというとそうではないはずだ。あくまで銀行業の中でwebという手段を使っていることに他ならない。

弊誌起業家.comはwebメディアという位置づけにあたるのであろうが、じゃあこれはITの事業なのだろうか。一概にそうとは言えないはずだ。やっていることは雑誌に近い。情報やコンテンツを発信するということをwebのネットワークに乗せて行っているだけで本質的にInfomation Technologyなのかというと違うように思える。

じゃあ楽天はIT企業なのだろうか。楽天自体はおそらくITを謳っているだろうが、楽天がしていることは”ショッピングモール”だ。それをweb上で行ったという意味では1つの情報を用いた技術と呼ぶこともできるのかもしれないが、本質的にはショッピングモールであり、大手百貨店とかと変わりないように思える。それをweb上で行っただけのはずである。

”IT業界”は10年後にはなくなる

おそらく『IT業界』という言葉は10年後にはないのかもしれない。今の定義のままITという言葉を使っていると世の中の半分以上がITの分類になってしまう。もしも、今の感覚を残すのだとしたらweb上で物を売るという意味でのEC(楽天やamazon)、物を売り買いしたり仕事を頼むことができる場所であるC2C(メルカリ、Airbnb、Uberもここに入る)、情報を発信し広告で収益を挙げるという意味のメディア(Yahooニュース、Gunosyなど)というような分類が生まれるのではないだろうか。ソーシャルゲームはゲームであるから純粋な意味でのITではないし、もともとの意味と同様のITというのは少ないように思える。みなITを使ってメディアをやったり物を売ったり人と人がつながれる場を作っているのだ。

純粋なITで言えば、クラウドサービスを提供するDropboxや検索エンジンという技術を提供するGoogleなどであるのではないだろうか。そうした企業やSIerと呼ばれるシステムの構築などを行う企業が今のITの定義には当てはまる。そうした企業郡もまた別の呼ばれ方をするのではないだろうか。技術を開発する企業とその技術を使って物を売ったりする企業とでは趣が異なるだろう。

”IT企業”を志望するのは大きな間違い

純粋な意味でのIT企業ではない楽天などと研究者が検索エンジンの技術を追求するGoogleではやっていることが大きく異なることは想像がつくだろう。学生が『IT企業にいきたい』と考えることには違和感がある。それは、『大手企業にいきたい』と言うほど範囲の広い話であるからだ。

せめて技術を提供する企業とサービスを提供する企業、はたまた物を売る企業では大きく異なる。そうした誤解を生んでいる要因の1つにITコングロマリットと言えるwebサービスを基盤に様々な事業を行うDeNAのような企業があることが挙げられる。しかしながら本質的な中身を見ないことにはIT企業たちのことを知ることはできないだろう。実像がないがゆえに難しいジャンルなのだろうが、そうした理解をすべきだと考える。