R25がサービスを終了する。
フリーペーパーとして登場して、オンライン版に完全移行していたが、インターネットメディアとして成功することはできなかったのだろう。
R25が廃刊
R25が13年の歴史に幕を下ろした。フリーペーパーとしてこの世に生を受けたR25は、オンライン版のメディアとしてサービスを続けていたが、3月31日にサービスの更新を終了、4月28日でサービスが終了となる。
R25が登場した頃は、インターネットメディアという概念がそもそも希薄だった頃だ。2004年7月にビジネスマン向けのフリーマガジンとして生まれたことからも分かるように、情報というのはテレビ画面を通して見るか、雑誌のように手に取って見るかの2択だった時代だ。
今のように雑誌が売れないということもなく、テレビや出版業界がメディアという存在を担っていた。インターネットにあらゆる主戦場が移るのはまだ先の話である。
そもそも、iPhoneがようやく10年を迎えたあたりであり、R25はそれ以前から存在するメディアであったことが分かる。もちろん、パソコンを通してあらゆるサイトを見るような消費者もいただろうが、それはごく一部。インターネットの影響力が強くなったのはスマホの存在が大きく寄与していることは言うまでもない。
R25とは
R25と言うとフリーペーパーを思い浮かべる人が多いだろう。
ビジネスマン向け(R25の名の通り対象は20代前半だ)のコンテンツが多く、インタビュー記事や商品の紹介(やたらとAXEという男性向け制汗剤が多かったように思える)に、マンガなどのコンテンツからなる。
ページ数は20ページくらいで、毎週1回発行される。駅構内に置かれていることが多く(オンラインに完全移行する前の話)、若い男性への認知度は非常に高いだろう。L25という女性向けのフリーマガジンも存在した。
インターネットメディア全盛期
そして今は、キュレーションメディアが世間を騒がせたように、インターネットメディア全盛期だと言えるかもしれない。インターネットメディアと雑誌、テレビなどのコンテンツはその仕組みが異なる。コンテンツの特性も異なれば、その流入経路も、ビジネスモデルも違ってくる。
インターネットメディアとしてよく知られるのはBUZZFEEDなど。いわゆる編集部が存在し、記者の取材などに基づいたコンテンツが定期的に挙げられる。これが今までのメディアの在り方だ。しかし、新しいやり方は、キュレーションメディアのようにコンテンツを量産するスタイル。仕組み上は誰でも書き込むことができ、編集部などを通す必要はない。実態としてはクラウドソーシングサービスで依頼を受けたライターが1記事2000円などの単価で執筆を行っている。
つまり、ものすごくざっくり言えばインターネットメディアの在り方としては1コンテンツにかけるコスト(時間、お金、労力、スキル、知識など)が圧倒的に下がっているという部分である。
もちろん、TechCrunchやITmediaなど、インターネットメディアでありながらも雑誌などの今までの在り方と同様に編集部が機能した形でコンテンツの質を担保しているメディアも多く存在する。
ただ、今回R25が廃刊になったように、インターネット上ではユーザーのコンテンツに対するアプローチの仕方が異なることから、出版の仕組みをインターネットに持っていくやり方では採算のとれないケースが多い。
インターネットがもたらした選択肢の急増
R25は今の20代、30代世代にとって馴染みの深いフリーマガジン(メディア)だ。誰しも1度は手に取ったことがあるだろうし、事実インターネットメディアの盛んでない10年前には1つの娯楽だった。駅でR25を手に取って帰りの電車で読む、というスタイルが月曜日の定番になっていたという人も少なくない。
R25が何か変わったというよりも、変わったのは我々の方だ。ガラケーの陳腐なモニターに操作性の悪いボタンで読むコンテンツとは違って、スマホで見るコンテンツは非常に質が高い。雑誌ほど質が高くはないが、暇を潰すのには十分だ。情報の信頼性とかは置いておくとして、まあ電車の中でとか寝る前にとかそういったスキマ時間で読むには悪くはない。そうした結果がキュレーションメディアというまた違った問題を生んだわけではあるが、我々の行動がスマホによって変わったのは間違いない。
コンテンツが溢れるなかで、ユーザーの選択肢は多く視線はあらゆるメディアに分散されるようになった。これがインターネットメディアが変わっていった理由だ。テレビは今リモコンの上に数個のボタンが乗っている。しかし、これが30チャンネルになったら確実に1チャンネルあたりの視聴者数は変わるだろう。
今までほどではないものの、テレビ番組が多くの制作費をかけて比較的品質の高い(賛否両論あるだろうが少なくともYouTubeに上がっている動画とかに比べたらクオリティは高い)コンテンツを配信できるのはチャンネル数という障壁があるからだ。テレビユーザーの選択肢はある程度制限されている。制限されているからこそ視聴者数が一定水準で高止まりし、コストをかけることができる。
しかし、インターネットでそれは通用しない。チャンネル数は膨大な勢いで増えていくのである。R25は、駅構内に配置されていたから手に取っていた。でもそれはスマホがなかったからだ。スマホがあったらわざわざ荷物になるフリーマガジンを手に取るインセンティブはなくなってしまった。事実、R25は2015年9月にオンライン版のみになっている。
選択肢が増えることは質を落とす場合もある
どんどんと苦境に立たされていく出版業界を尻目にテレビが古臭い体質でも未だに残り続けているように、選択肢が制限されているとコストをかけてコンテンツを作ることができるものの、選択肢が増えた世の中において徐々にコストをかけたコンテンツというのは淘汰される定めにある。
キュレーションメディアというのは、(パクりとか信頼性というのは一度置いておくとして)限られたコストの中でコンテンツの制作を一種自動化することによって高い満足度を弾き出すインターネットの中で生き残るための立派な戦略と言えるだろう。
すごい丁寧にコンテンツを作ったからといってすごい読まれるわけではない、すごいお金になるわけではない。
これがインターネットの時代の在り方だ。特に、R25のような”暇つぶし”テイストのコンテンツはそれが顕著に表れる。ある程度専門性を持ったメディアならばインターネットであろうがその価値が認められるかもしれない。技術系のメディアだったり、ビジネス系のメディアならば広告の単価も高く、ユーザーの目も厳しい。
インターネットの時代において、スマホの時代において”変わる必要がある“ということはもはや説明無用だ。インターネットに合わせたメディアの形を示したのがBUZZFEEDだろう。彼らはインターネット上で、特にFacebookでコンテンツがシェアされるための、そしてユーザーが友達に共有したくなるようなコンテンツ作りのプロフェッショナルである。
インターネットという情報伝達の速い媒体を生かしてむしろ今まで以上に優れたコンテンツを作ったいい例だと言える。
“メディア”の参入コストはほぼゼロになった
メディアというものを始めるためにはもうコストはいらない。はてなブログでももうそれはメディアだ。メディアの人たちがメディアと認めるかは分からないけど、少なくともR25とかそういったメディアと同じ土俵で勝負することになる。
ユーザーが読むコンテンツは素人のブログであるのか、編集部の作ったコンテンツであるのかを問わない。
ここが、他のビジネスと異なる部分である。
例えば、あなたが中華料理屋を開くとしよう。その参入コストは大きい。テナントを押さえなければいけないし、メニューを作らなければいけないし、食材を仕入れなければいけない。急に素人が自宅で作った料理を街中で販売するということはあり得ない。一定の壁がそこにはある。
もちろん、飲食店のハードルというのはおおよそのビジネスよりは低いからそういう意味では競争は非常に激しいが…
メディアは飲食店の比ではない。読む側が面白いと思うかどうかの違いでしかないから、素人の作ったコンテンツがしかも20分で作ったコンテンツが面白いこともある。その人にしか書けないものもあるかもしれないし、素人がメディアより面白いコンテンツを生み出してくることも平気であるだろう。
参入コストが低いということは過当競争になりやすいということだ。その結果生まれたのがキュレーションメディアのような低価格でコンテンツを量産する仕組みだし、少なくともR25よりもキュレーションメディアの方がビジネスとしては成功している。
個人でも飲食店が開ける中で、高級店と徹底的な効率化を図った低価格チェーン店におおよそ2分化されるように、メディアもそうなるのが生存戦略として妥当だ。
リクルート式の難しさを感じる
もちろん、素人に簡単に作れないコンテンツ、しかもそれがユーザーにとって欠かせないものであるならばレガシーなメディアは生き残る。ただ、科学誌として有名なNewtonでも民事再生法の適用を申請するなど、時代には逆らえない部分は多いかもしれない。
R25はリクルート社のサービスとして生まれている。リクルート社と言えば、じゃらん・ゼクシイ・SUUMO・リクナビなどのビジネスモデルで知られていて、多くの起業家を輩出するなど当然一流企業である。
リクルートの強みとしては、web2.0的な営業力を武器にして、ビジネスモデルと高速回転させるところにある。じゃらんならば旅館・ホテルに営業をかけて掲載店舗を増やし、広告費を投下してユーザー数を増やすというようなやり方である。
R25も同様で、フリーマガジンを駅構内に配置して、という作業にはかなりの人手がいる。キュレーションメディアを作っているスタートアップにはそれを行う体力はないだろう。ただ、時代に合っているのはそうしたリクルート式よりもインターネット上のコンテンツの流通に長けたBUZZFEEDや、大量のコンテンツを安価で量産しビジネスとして成立させるキュレーションメディアのスタートアップたちなのかもしれない。
リクルートはもう古い
おそらく、リクルートのやり方というのはもう古い。
スマホ時代においては苦戦を強いられるようになることは間違いないだろう。持ち前の営業力でフリーペーパーを駅構内に配置し、読者を増やして広告費をとってくるというサイクルでやっていたR25が廃刊になったように、スマホ時代のwebサービスはルールが変わってくるからだ。
リクルートの強みはインターネット上のサービスというよりも、ビジネスモデルを高速回転させる部分だ。広告主を圧倒的な営業力で獲得しコンテンツを充実させる(例えば、リクナビにおいてコンテンツのクオリティというのはおおよそどれだけの企業が登録しているかと同等だ)、そして広告費を投下してサービスの認知度を高めるというサイクルを完成させることにおいては日本一である。
しかし、例えばホットペッパービューティーに対してmixiのminimoがサロン予約で食い込んだように、スマホ時代のサービス作りに秀でた企業がユーザーに好まれるように変わっていくだろう。
“選択肢”が増えた時代においてリクルートが勝ち抜いていくのは難しい。当然、リクナビなどのようなサービスは今後も強い影響力を維持するだろうが、苦戦する市場は確実に増えるだろう。