なぜテレビ局員は高給取りなのか?参入障壁との関係


世の中にはビックリするほど給料の高い企業が存在する。
テレビ局はその1つではあるのだが、はたしてなぜここまでに給料が高いのだろうか。その理由を探ったときに参入障壁というビジネス戦略に欠かせない要素が見えてくる。

儲からなくても高給料のテレビ局の謎

特に就職活動において、気になるのが給料。はたしていくらもらえるのか。おおよその場合について、新卒で入社する際の企業で生涯の賃金が決まってしまうケースも決して少なくはない。
ところで、最も賃金が高いのはどこだろうか。有名なのはゴールドマンサックスやマッキンゼーをはじめとする外資系の投資銀行およびコンサルティング会社である。これらの企業についてはアップオアアウト(出世するか会社を去るかという意味)という言葉が出てくるほどに競争が厳しいことが特徴であり、そこに入社する学生はほとんどがMBAや大学院卒、そして揃いも揃って東大、京大などの国立や早慶などの高学歴である。中途採用の場合では完全な即戦力であることも当然のように求められており、そういった点では高給とりであることは頷ける。事実、激しい競争の末に勝ち取ったポジションにはふさわしい賃金だと言えるだろう。

日系の企業であれば、有名なのは商社や大手不動産(この場合ディベロッパーを指す)、そしてテレビ局などであろうか。商社も大手不動産も大きなお金を動かしており、その儲かり度合いからすれば高給取りであるのは頷ける。
では、テレビ局はどうだろうか?近年、テレビ離れがささやかれる中で、フジテレビに至っては本業で赤字を記録するなど決していい業績を挙げているとは言えない。一般的に儲かっている企業で高い給料を支払っていることは不自然なことではない。ところが、テレビ局ではなぜこうも業績が芳しくないのに高い給料が払われているのだろうか。しかも、商社マンや不動産マンがやり手だという話はよく出てくるが、テレビ局員についてはそれを聞かない。

テレビ局の高給はその唯一無二の権益にある

テレビ局員の給料と言えば、平均年収でおおよそ1300万円と言われている。これは、一般的な社会人の3倍程度にあたる金額である。日本で最も高給であると言われるキーエンスが30%超え、大手不動産が10%超えの利益率を当たり前に叩き出し、好調を維持する中、テレビ局の利益率は一般的な3%程度の水準である。決しても儲かっているとは言えない。

では、なぜ儲かっていない企業で高い給料が払われているのだろうか。その疑問については業種間での参入障壁という言葉が解決してくれるだろう。
逆に、給料の低い業種は何だろうか?それを考えてみると分かりやすい。飲食店などは低い賃金に苦しんでいるが、それは激しい競争に晒されているからである。競争の結果、価格を下げることが多い外食産業については払える給料もどんどん少なくなる。

それに対して、テレビ局の例を考えてみればいい。テレビ局というのは電波という他の企業が持たない権利を持っている。どれだけ他の企業がお金を積んで参入しようとしてもその電波を保持していなければ何にもならない。日本でたったの数社が抱えている大きな権益である。そのため、価格競争というものが起こらない。(厳密な意味ではクライアントである広告主についてはその他の選択肢も持っているから全く競争がないとは当然言えない。)

そのようなテレビ局の持つ唯一無二な権限がこの高給を維持していると言えるだろう。それほどまでに電波およびリモコン上のチャンネルというものの持つ力が大きいことを物語っている。

参入障壁と利益率の関係

一般的な経済でよく知られた理論が、『需要と供給』の理論である。需要が増えれば増えるほど価格は上がり、逆に供給が増えれば増えるほどに価格は下がる。こうしたことが言える。当然、市場ごとに需要というのは基本的に決まっている。供給量というのはそれに応じて変化するとされているのであるが(必要であればあるほど作り手が製造をするから)、それは少し違う。市場ごとに参入障壁があるからだ。

先ほど挙げたように、外食産業については参入が容易である。そのため、供給過多になりがちである。参入者が多ければ多いほどに価格は下がる。酷い場合には最低賃金を超えた労働などの形でコストカットが行われ、そうして価格を維持するケースが見られる。

それに対して、参入が難しい領域、例えば参入に莫大な資金が必要である鉄道、エネルギーなどのインフラについてはそれが非常に高い。テレビ局についても同じことが言える。そうした場合については価格競争が起きず、高い価格が維持される。その結果として高い給料を払うことができるのである。参入障壁が高ければ高いほど利益率も高くなるというのは自然な話であろう。

儲かるビジネスは参入障壁の高いところにある

これは当然ながら一般的に起業であったりビジネス、そして就職活動などについてもいえる。儲かる機会というのは参入障壁の高いところにある、もしくは急成長しており、まだ誰も参入していないところにあるだろう。

自ら、もしくは自社で考えられうる最も参入障壁の高いことを行うのが最も利益率を高くできる市場になる。他者が参入できないのだから価格競争が少なく儲かるのは当たり前の話だ。外食などの誰でもできる商売はそれほどまでに利益が出にくいというのもまた当たり前の話だ。

だからこそ、多くの企業については自社の築いた市場について参入障壁を上げようとする動きを起こす。参入障壁を高く保つことによって同時に利益率も保とうとする。

ソーシャルゲームのコスト遍歴

ソーシャルゲームについてはこのことを説明するのに非常に都合がいい。アプリの市場というのは2000年代や2010年代はじめにかけては非常に小さい誰も注目していないような市場であった。そこでビジネスというのはほとんど起きていないに等しいのだから自然な話である。

それが、パズドラ含め(もしくはそれ以前の)多くのヒットタイトルが出ると多くの企業はソーシャルゲームに注目を送る。そして多くのパブリッシャーがゲームの開発に取り組むわけではあるが、実は今のソーシャルゲームの市場はそれほど競争過多にはなっていない。

それはなぜか、ソーシャルゲーム界における先行者がゲームのグラフィックなどのクオリティを引き上げ、同時にコストを何倍も上げたからである。後からソーシャルゲームに乗り込もうとしている企業はそのレベルのクオリティを作らなければユーザーを掴むことができない。それによってソーシャルゲームについては高い参入障壁を作り上げた。

ブランド価値もまた参入障壁

他の例で言えば、スマートフォンについては多くのメーカーが参入していることは周知の通りであろう。AppleのiPhoneにソニーのXperia、シャープのAQUOS、サムスンのGalaxyといった具合に名前がいくらでも挙がってくる。

ところが、スマートフォン市場の利益を100とするとAppleのスマートフォン市場での利益は96にも及ぶと言われている(マイナスの企業もあるから残りが4とかそういう論理ではない)。Appleがそれだけボロ儲けしているのは明らかであるのだが、はたしてなぜここまでに他のメーカーとの差がついているのだろうか。

それは非常にシンプルにブランド力という言葉で言い表すことができる。AppleのiPhoneは他のメーカーにはないブランド力を持っているから価格競争に巻き込まれる心配がないのである。このブランド力は高い参入障壁に勝るとも劣らない力を持っている。

日本の多くの家電メーカーは近年苦戦を強いられているが、そこで必要だったのは、高性能を安い価格でという競争ではなく、他と比べられないためのブランド力だったのかもしれない。

競争をしないことがビジネス戦略だ

ここまでである1つの結論に気付くことであろう。ビジネスにおいて競争を強いられる状況というのは実は望ましい状況ではないということに。いわゆる戦略という言葉は多くの場で見られるが、この戦略という言葉は”戦いを略す”と書く。つまり、戦わなくて済む状況が戦略なのである。

参入障壁なのか、それともブランド価値なのか、はたまた別のものなのか。様々な戦略が想像されるわけではあるのだが、戦わなくていい状況にある企業というのが最も有利な状況にあり、それに伴った安定性から給料が上がるケースも多いというのが1つの結論である。