アメリカで日本よりもフリーランスが多い理由


アメリカと日本では働き方が違う。
その大きな違いは、フリーランスの数の違いにあるだろう。

アメリカではフリーランスが多い

日本では、アベノミクスの成否がやれどうだと、景気がどうだという話が多く出てくる。それはもちろん各国での話であるし、どこでも政治について語られるときにその議題になるのは景気の話、庶民の話だ。日本では労働者の賃金がどうこう、実質賃金が上がった下がったと見る場合が多い。

しかし、話をアメリカに移すとそういった形になることは少ない。ではなぜか、アメリカでは庶民より富裕層の話に焦点が当たるのか。そんなことはない、どんな国だろうとその国で大きなボリュームを占める庶民が票を動かす。なぜ労働者の賃金の話に焦点がいかないのか、それはアメリカではフリーランスが就業人口の34%にもなるからである。
つまり、労働者の数に近いくらいフリーランスの数がいて彼らも十分にボリュームゾーンを占めているということだ。

フリーランスは主に企業に属さない形で生計を立てる人を指すことが多いが、この場合には給料をもらう労働者ではなく、個人事業主として確定申告をしているものを指す。例えば農家の人も商店街の店主もこのフリーランスだ。この数は日本では19%ほどでありアメリカの数字とは大きく異なる。では、なぜアメリカではフリーランスが多いのだろうか。

アメリカが独立開業しやすいわけ

結論から言うと、アメリカの方が日本よりも独立開業がしやすい状況になっているからフリーランスになっているということが最たる要因である。つまり、日本では独立がしにくいけれどもアメリカではしやすいからフリーランスが増えるということだ。
では、なぜそうした違いが起こるのだろうか?税制上の問題?アメリカの企業法が違う?それとも起業に対する支援が手厚い?これらは全てその1番の理由とは言えない。アメリカでフリーランスが生まれやすい理由は、そもそも企業での働き方、1人1人の仕事の範囲の違いにある。

アメリカの雇用には日本では非常に一般的な総合職採用といった概念がない。
例えば、日本で新卒採用で企業に入る場合、理系の技術職はともかく多くの文系については専門知識を要求されることがない。要するに”総合的に”採用を行って、そこからみな横一列で研修を行うというのが一般的だ。採用試験で専門的な知識を問うテストを行ったり、卒業論文の内容を企業が見ることなどはまずない。
それに対して、アメリカでは就業段階で一定の専門的な知識および経験を求めることが多い。そもそも、一括での新卒採用を行わないし、大学卒業後にインターンを経て就職するケースも非常に多い。その段階で即戦力として評価されてやっと評価されて企業に就職するのだ。

アメリカはその点においては徹底していて、エントリーシートに顔写真を貼ることを禁止していたり(人種や顔で求職者を差別することを防ぐため)、採用の際に年齢を聞くことも禁止されている。求人にはその職場や役職で求められる経験やスキルが詳細に明記され、それに合った人物を採用する。
そのため、エンジニアリングに非常に長けた天才がいたとしても彼は広告会社のエージェント職に採用されることはまずない。日本だったら、東大卒の理系の天才がいたとしたら総合職として広告代理店の採用を勝ち取る可能性は高い。

日本とアメリカの仕事の違い

そうするとどういったことが起こるのか、企業の中でも各々の仕事の範囲が明確に決まる。俺は~の専門だから、という風に役割分担がはっきりするため日本のように自分のように異動が起こったり、プロジェクトに必要な人数が集められ、その中で役割分担を決めるということはない。もともと役割が決まっているのだからそれが変わることはなく、プロジェクトに必要な役割ごとに人を集める。なんで自分がこの仕事をやらなくては、ということはないのである。

もちろん、アメリカ式が一方的に優れているということを言いたいわけではない。日本式のやり方では、全員が同じような過程を踏むため意思の疎通がとれやすかったり、誰か欠員が出たとしても補いやすい部分がある。アメリカではそうはいかないだろう。欠員が出たらその分採用を行うのが企業の仕事だ。一部の優良企業にある専門の職種がとられてしまった場合一向に埋まらないこともある。あくまで違いの話だ。

アメリカでは転職しやすい理由

アメリカで転職が多いのもこうしたことが起因していると言えるだろう。
日本の総合職は、その会社でのやり方やその会社の業務全般を行うことになる。また、仕事を全員で分担するという形が多いため、1人だけで1つのことを完成させることは少ない。だからこそ他の企業にいった場合にその文化を覚えるまでに時間がかかることも多い。
対して、アメリカでは仕事が決まっている。その仕事のやり方はどんな企業でも共通だ。でないと、求人を出す際に詳細に書いてもそれができる人材が集まらない。もちろん解雇規制なども多いがこうした仕事の仕方の違いも十分にある。

では、考えれば分かりやすい。転職しやすいということはフリーランスとして自分で仕事も受けることもやりやすいわけだ。日本は今ある社員に対してどうやってビジネスを回すかを考えるが、アメリカはビジネスが先でそれに対してどうやって人材を埋めるかを考える。ということは、そのピースは社員でも外注でもいい。日本はそうはいかないだろう。それに誰がどんな仕事ができるのか、という部分も明確ではない。しかし、アメリカでは全てが同一の規格で行われれていることが多いため、企業の中にいなくとも仕事がしやすい。こうしたことがアメリカのフリーランスの働きやすさを支えている。

今後働き方はどうなっていくか

日本では、フリーランスという手段を考える際に、そもそも独立してやっていけるかを考える場合が多い。人によっては、会社員という形以外やっていけないからそうしているというケースは少なくない。しかし、アメリカは基本的に違う。単純労働者はともかく一定の地位にいる労働者は自身の仕事が明確になっているしそれができなければそもそも雇ってもらえない。
独立するというのがまた別の能力なのではなく、手段として会社に属するか自分で仕事をもらうかに分かれる。

どちらがいいかというのを簡単に決めることはもちろんできない。ただ、今後アメリカのような形が増えていくであろうことは間違いないだろう。
本誌側として意見を述べるのであれば当然アメリカのスタイルでの職業の在り方を支持したい。この会社を辞めたら他では通用しないというような形で働くというのは決して望ましいことだとは思えない。外資の波がどれだけ日本の労働者を動かすのだろうか。