ついに次のアメリカ大統領が決定する。
はたして勝つのはヒラリーかトランプか。そして日本への影響は。
今日大統領選投票が始まる
ついに今日2016年11月8日午後8時(日本時間)、アメリカ大統領選が順次開催される。両候補は前日まで必死の訴えを続け最後の望みを託してる。もちろん、最大の注目はヒラリーが勝つのかトランプが勝つのかという部分であろう。
そもそも、大統領選の予備選が始まった段階で大本命はヒラリー・クリントンであった。
出典 http://www.williamhill.com/
ブックメーカーのオッズでは、ヒラリー・クリントンが1.83、ドナルドトランプが5.00、バーニー・サンダースが7.50、マルコ・ルビオが9.00、テッド・クルーズが17.00となっている。結局出馬はしなかったマイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長にも17.00とテッド・クルーズとジェフ・ブッシュと同じオッズがかかっている。(ブルームバーグは第三極の独立候補として立候補が噂されていた。)
大統領選は選挙人の数を競う
アメリカ大統領選において雌雄を決するのは、どの州をどちらの候補が獲得するかという部分である。
一般的にはアメリカでは州ごとに支持する政党が違ったり、色濃くその地域の特性が反映されるため、青のクリントン優勢、赤のトランプ優勢の州、そしてまだ分からないのが黄色の激戦州ということになる。メイン州とネブラスカ州を除いた48の州では、勝者総撮りの方式が採用されており、そのことから得票数が上回ったほうが勝つという仕組みではない。
実際につい最近の2000年のアメリカ大統領選挙でも合計約5046万票獲得したジョージ・W・ブッシュに対して、アル・ゴアは合計約5100万票獲得している。この数字を見れば勝っているのはアル・ゴアである。しかし、選挙人獲得数ではブッシュが逆転し、271人の選挙人を獲得、266人しか選挙人を獲得できなかったゴアに5票差で勝利した。
選挙人の数が多いカリフォルニア州やテキサス州で僅差であろうと得票数を得て、逆にそれが少ない州では1票も得ることができなくても勝てる可能性がある。
2000年のアメリカ大統領選の場合では、ブッシュはフロリダ州で僅か327票という史上稀に見るの僅差でゴアに勝利し、25人の選挙人を獲得することができたが、この327票が逆だったらブッシュは間違いなく負けていたと言えるだろう。どの州に力をいれ獲るのか、という戦略も含めて大統領選ではキーになってくる。
ヒラリー優勢の状況
そして、現在のヒラリー勢力とトランプ勢力はおおよそ以下のように予想がされている。
この通り、ヒラリー優勢の州の選挙人の合計人数は215、トランプ優勢の州の選挙人の合計人数は164、激戦の州は159となっており、ヒラリー優勢と見られている。一時は、電子メール問題で劣勢も囁かれてたがどうやら今では払拭されたと見られており、報道を総合する限りではヒラリーのほうが有利とされている。
アメリカ大統領選の仕組み
そもそも、アメリカ大統領選はどのような仕組みなのだろうか。そこを改めて紹介したい。
これが、おおまかな大統領選の流れになる。主役になるのはもちろん、民主党と共和党という2つの大きな政党である。大統領選は1年間を通して行われるが、その中で半分を占めるのは予備選と呼ばれる民主党、共和党それぞれの統一代表の選出である。ご存知の通り、今回の大統領選においては、民主党ではヒラリー・クリントン、共和党ではドナルド・トランプが選出されている。
ここに第三の党と呼ばれるその他の党が加わるわけであるが、リバタリアン党やアメリカ緑の党をはじめ、二大政党以外の政党や無所属の候補も立候補することが可能である。しかし、アメリカでは泡沫政党の候補はそもそも全ての州で選挙人を擁立していないため大統領を当選させることは(該当する選挙人がいないことから支持率関係なく)不可能であり、わずかでも当選可能性がある候補は二大政党以外にはリバタリアン党と緑の党に限られることになる。
前述の通り、マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長が無所属での立候補を検討していたが、2016年3月7日にすでに立候補を断念したことを表明している。
投票日が火曜日になっている理由
なお、本日2016年11月8日午後8時(日本時間)から行われる一般投票の日は”11月の第1月曜日の後の火曜日”(つまり、11月の第1火曜日、しかしそれが1日の場合は8日)と建国直後から決まっている。それにはいくつかの理由があり、まず11月になっているのは当時は農業が主要産業で11月は比較的忙しくないこと、火曜日なのは日曜日に礼拝がありその後の移動になると当時の移動手段がなかった時代なると月曜日だと到達できないようなケースから。1日でない理由は当時1日に決算が集中しているからとしている。
今では、日曜日や土曜日などの国民が休日にあたる日にしない理由として、土日は休養であり、労働者の休む権利を損なうからとしている。火曜日ということもあって、一般的に労働者は投票に行く時間については勤務を免除されることが多い。
基本的に日曜日にしている日本はそういった意味でアメリカとの労働に対する考え方の違いが表れている。
残すは激戦州の動向に
では、今回の大統領選はヒラリーとトランプ、どちらが勝利するのだろうか。現在優勢とされている部分については選挙人をすでに振り分け考えると、ヒラリー215、トランプ164であり、過半数には270が必要であるから、残りの159のうちからヒラリーは55、トランプは106を獲得する必要があるということになる。
これだけを見た場合、ヒラリーが優勢であり、さらには世論調査の支持率は、いずれもヒラリーが4~6ポイントほどリードする結果になっている。最新の結果では、アメリカの政治情報サイト『リアル・クリア・ポリティクス』の発表した先月31日から今月7日の間に行われた調査の支持率の平均値は、ヒラリーが47.2%、トランプが44.3%で、2.9ポイントの差は先週1ポイント台まで縮まったのを考えると開いている。
2016年選挙の場合、フロリダ州、コロラド州、オハイオ州、ペンシルバニア州、バージニア州、ノースカロライナ州といった激戦区がおそらくキーになる。すでに2人の候補者は演説をやめ、SNSなどによるアピールに終始しているが、その行方は一瞬の勢いによって決まるかもしれない。そういった部分で言えば大衆の心を巻き込む力のあるトランプ有利である。
ヒラリー・クリントンの支持層は
ヒラリー・クリントンの支持者はなんと言っても女性である。自身が女性であることからも女性からの共感を集めやすく、対してトランプが女性への侮辱的な発言や過去の女性スキャンダルが掘り起こされたことで女性人気が地に落ちていることからその差はより一層大きくなった。
しかし、ヒラリーが女性からの支持を集めていると言っても若年層の女性については予備選においてヒラリーよりもサンダースの方が支持を集めていた。もっとも、サンダースの若年層への人気が高かったこともあるが。
また、夫のビル・クリントンが大統領時代に黒人保護政策に力を入れた背景から、クリントン家は黒人の支持が非常に厚い。この点においてもヒラリーがトランプより上回っている。
ドナルド・トランプの支持層は
実は、白人の女性についてはトランプの方が支持率は高い。ヒラリーは女性に対する支援を掲げて女性の社会進出を後押ししようとしているが、それがアメリカで忌み嫌われている特権階級による(男)社会の特権を白人女性に分け与えるような形になってしまうのを国民全体が忌み嫌っており、白人女性もそれを嫌っている。
また、トランプ支持者は主に45歳以上の層に多く、その傾向は顕著だ。18~44歳までの層ではヒラリー45%、トランプ33%と大きく差を開けられている。熱狂的なアメリカ国民が勢いで支持しているイメージから若者の特に低所得のブルーワーカーに好まれているイメージがあるが数字ではそうではない。
年収3万ドル未満の層はヒラリー55%、トランプ31%。年収3~5万ドルの層はヒラリー46%、トランプ36%。年収5~7.5万ドルはヒラリー42%、トランプ42%。7.5万ドル以上はヒラリー43%、トランプ47%となっている。
意外にもトランプ支持者は高所得なのである。
ただ、学歴については、高卒者でヒラリー35%、トランプ52%。大学中退者でヒラリー38%、トランプ47%。大卒以上でヒラリー50%、トランプ36%となっている。このことから、トランプ支持者の群像は『学歴は高くなく、今のアメリカ経済に不満を持っている中高年』と言えることが分かる。年収において上位である方がトランプ支持なのはおそらく年齢の問題だろう。年齢を固定して比較した場合、学歴が高く年収が高い方がヒラリー支持で逆がトランプ支持となるはずだ。意外にも若者のほうが冷静に見ている可能性がある。
勝負を左右するのは”隠れトランプ層”
トランプが大統領選に勝利するには残り勝敗が動くとされている159の選挙人のうちで106を獲得しなければならない。普通にいったらヒラリーが勝つわけだ。激戦区の州で票をとって逆転するためには、隠れトランプ支持者がどう動くかによるだろう。
『ブラッドリー効果』と呼ばれる現象があり、1982年のカリフォルニア州知事選で、黒人のトム・ブラッドリー元ロサンゼルス市長が世論調査では大きくリードしていたが、敗れたことがあった。有権者の多くはライバルの白人候補に投票すると認めると人種差別だと批判されることを恐れていたため、実際の支持と世論調査に隔たりがあったのである。
トランプにも同じことが言える。アメリカではマスコミはトランプを強く批判しているし、言論としてヒラリー支持、というよりもトランプ批判の方が強く広まっている。それゆえに隠れトランプ層が多く存在するのではないかと考えられているのである。
行方不明の白人票は
最近の大統領選では白人有権者の投票率が下落傾向にある。この下落分をアメリカのメディアは”行方不明の白人票”と名付けており、その動向次第で大統領選の行方が動くとしている。1980年の大統領選で有権者に占める白人の構成比は88%だったが、2004年には77%、2012年は72%になっている。白人の投票率は2004年の67.2%から12年は64.1%に下がっている。
ウォールストリート・ジャーナルは”行方不明の白人票”が500万人いると指摘している。
トランプの支持層となる非大卒者の白人はそもそも投票率が大卒者よりも20%近く低い。この層が、さらに隠れトランプ層が投票に進めば事態は一変するかもしれない。
大手ブックメーカー『ウィリアムヒル』の今月2016年11月3日時点の予想ではヒラリーが1.4倍、トランプは2.75倍となっている。そのまま確率に当てはめればヒラリーが66%、トランプが34%となるわけであるが、隠れトランプ層を入れればトランプの勝率は50%近い可能性すらあるのではないだろうか。
ヒラリー・クリントンが大統領になったら
ヒラリー・クリントンは周知の通りオバマ政権以前はビル・クリントンの妻であり大統領夫人。オバマ政権では国務長官を務め政治経験は豊富である。
彼女が大統領になった際の経済政策のブレーンとしては、連邦準備制度理事会の副議長だったアラン・ブラインダー(プリンストン大学教授)がまず名前に挙がる。
今年頭の2016年1月17日の討論会では、ヒラリーは就任後の100日間に取り組む優先事項として、雇用創出とインフラ整備、最低賃金の引き上げ、男女の賃金格差の解消、処方薬の価格引き下げを含む医療制度改革の拡充などを挙げている。
また、予備選終盤ではどの候補も若者層の取り込みに尽力しており、ヒラリーは大学の学費負担の軽減を公約として掲げていた。
基本的には、ヒラリーはオバマ大統領という前任者のあり方を継承しながらの路線となる見込みで、大きな部分としては同盟重視の外交で日刊やオーストラリアといった同盟国との関係を一段と強化するとしている。中国に対してはトランプほどではないものの強気な姿勢でサイバーや領土紛争、人権問題などでルールを遵守させるとしている。守らなければ代償を科すとも。
TPPは反対に転じる、ロシアへの強硬姿勢、イラン核合意を支持、イスラエル重視、ISへの空爆強化といった部分が特徴として挙げられるだろう。
特別大きな変化はなしか
とはいえ、アメリカ国民の強い関心はやはり国民の生活にある。自分の日々の生活がヒラリー大統領によって良いほうへ変わるのであれば投票するだろうし、そうでなければそれはないだろう。
ヒラリーは、最低賃金の引き上げ、それも時給15ドルを掲げており、『私の大統領としての主要任務は雇用を創出し、賃金引き上げを実現することだ』とすら語っている。インフラ投資の拡大と同時に大企業に税負担を求めるとしており、ウォール街の犬と呼ばれてきた部分については大企業にもある程度の負担を課すことで払拭することを狙いとしている。
その他では、就任すれば女性初の大統領ということもあり、教育支援や給与の平等化などによって女性の社会進出をフォローしていくことも掲げている。移民については比較的肯定的であり、不法移民でも市民権を獲得できる道を模索する。
ドナルド・トランプが大統領になったら
ドナルド・トランプはアメリカ有数の不動産王で資産家。今回の選挙には自身の資産のみで望んでいる。彼が当選すれば、公職や軍の要職を務めたことがないアメリカ史上初めての大統領になる。
トランプはサラ・ペイリン元アラスカ州知事が閣僚入りする可能性を示唆しており、投資家のカール・アイカーン氏が財務長官の候補だと語っている。さらにゼネラル・エレクトリックのジャック・ウェルチ元CEOや世界一の投資家ウォーレン・バフェット氏を経済顧問に任命したい考えを示したことがあるなど、自身が経済界の出なこともあってそうした連携が期待される。
爆弾発言で注目を集めているが、その中にもある『メキシコとの国境に壁を作る』発言の不法移民の抑止や国境管理の強化が挙げられる。また、中国を含め日本などとの貿易でアメリカファーストを強調している。日本車に対する関税を2.5%から38%に引き上げると語ったこともある。
(しかし、『もし日本がネブラスカ州の牛肉に38%の関税をかけるのであれば、われわれも日本車に同率の関税を請求するつもりだ』という文脈の中でありこれが実現される可能性は低いし、報道や一般の言説はおおよそ誇張されているだろう。)
小さな政府を実現か
では、ヒラリーと同様国民の食いつく部分について考える。
法人税は15%にまで減税、所得税の簡素化(上限は25%)にし、さらに低所得者に対する減税も掲げている。特に、低所得者に対しては全世帯の約半分にあたる『独身で年収2万5000ドル以下』、『夫婦で年収5万ドル以下』の世帯については所得税を0%にするとしている。相続税にいたっては廃止するという。
TPP協定からは離脱し、とことんアメリカ国民に対して過保護な姿勢である。上記の減税についてその分の税収の激減はどうなるか気になるところであるが、オバマケアの廃止で医療保険の義務化の撤廃を叫んでおり、そういった意味で福祉を減らし、小さな政府として機能させるつもりなのかもしれない。
また、ヒラリーが銃規制の強化を謳っている中、トランプは逆に銃の保持できる法制度を維持するとしている。
トランプの掲げる”アメリカファースト”
トランプはあらゆる点でアメリカファーストを掲げており、これが特に白人低所得者層への強いメッセージ性が込められており、他国に対する強気な姿勢は熱狂を生んでいるようである。それに対して、ヒラリーはトランプのアメリカファーストほど強烈なインパクトを残すことはできず、集会での盛り上がりなど国民の関心をつかむことに対してはやはり劣っている。
両者ともに『TPP反対』、『親イスラエル』、『アンチIS』、『インフラ投資』といった部分で、逆に大きな違いが見えるのは『同盟関係』「FRB』、『オバマケア』、『CO2削減』、『不法移民』、『銃保持』といった部分であろう。
トランプが大統領になればいっそう日本に対して強気な姿勢を示してきて、日本にとってマイナスが大きいということが言われているが、特に貿易に関してはヒラリーもTPP反対と見られる部分があり程度の差ではないかと考えられる部分もある。
軍事関係においては、トランプが大統領に就任した場合、日本に大幅な防衛資金の負担を要求し、日本側はそれを泣く泣く飲む展開も予想ができるが、核政策を含めて更地にして、日米関係を再構築する路線が現実的だろう。トランプは日本や韓国の核保有を認めうるとしたので、今と状況は異なるように思える。
トランプ大統領の悪夢
もしトランプが当選したならば、彼の言葉をそのまま鵜呑みにするのならば、アメリカは他の国の一切を信用せず、交わろうとせず孤立の道を歩むだろう。それによって影響を受ける国の1番がもしかすると日本なのかもしれない。軍事力において日本はアメリカに依存しており、アメリカ軍の撤退があったとするならば非常に危険な状態に晒されることになる。
TPPに対する反対の姿勢もヒラリーより強く、特にアメリカをお得意様としている日本に対しては強い関税を課す可能性も高い。事実としてアメリカは世界最大の経済大国でありそれだけのことができる可能性は十分にあるのではないだろうか。そういった意味でトランプ大統領は悪夢を招くと言われているのは自然なことである。
しかし、一方でトランプが大統領になってしまったら逆に何もしないのではないかと言われている。彼の発言の真偽はそのときになってみないと分からない。アメリカ大統領になるためにしたパフォーマンスでしかなくて、実務は他のものに任せると予想している者も少なくはない。
今発言している全てが実現されることはまずないだろう。しかし、日本人としてはヒラリー大統領を祈ったほうが安全ではある。