チャットボットがこの世界にもたらすものは何か


チャットボットという言葉を一度は聞いたことがあるのではないだろうか。
しかしながら、チャットボットがもたらすものまでは知られていない。はたしてチャットボットによってインターネットはどう変わるか。

依然、勢いを見せるチャットボット

Facebookがチャットボットのプラットフォームを発表

Facebookもチャットボットに関するサービスを発表するなど、『チャットボット』は現在のテクノロジー界における大きな関心ごとだ。マイクロソフトのサトヤ・ナデラCEOは、『チャットボットこそが新たなアプリであり、次なる大ブームになるものだ』と明言を憚らない。

では、なぜここまでにもチャットボットは注目されているのだろうか。ボットならばツイッターの自動投稿アカウントを指したり、LINE上の企業アカウントが有名だ。では、それらが今まで世界を変えたことがあっただろうか。間違いなくそれからは遠い存在だろう。一見ただのバズワード(言葉自体が独り歩きして実態はおおよそそれとは程遠いことを揶揄した言葉)に見えてしまうチャットボットはどんな存在なのだろうか。

そもそもチャットボットとは何なのだろうか

そもそも、チャットボットとは果たして何なのだろうか。チャットボットとは言うものの、それ自体の概念の定義を正確に知る物はいない。
チャットボットの基本的な働きは『チャット上のバーチャルアシスタント』だ。iPhoneなどに搭載されているSiriを思い浮かべれば話は早いだろう。Siriに話しかけるとあらゆる応答をしてくれる。例えば、『明日の朝8時に起こして』や『渋谷までのルートを教えて』などといった要求にも応えてくれる。もちろん、現状は限定的な動きのみに留まるものの、もはやただの会話のみの存在ではない。

それがFacebook上では、Facebookの開発したプラットフォーム上に、あらゆる企業が自社の商品の情報や、サービスの形をインプットすることで、個々のボットに対して消費者が望む動きをチャットボットは成し遂げる。アパレルショップならば商品の在庫の有無や、別の色、サイズの提案などをしてくれる。チャットボットという概念上で、あらゆるボットが最適化された動きをする。それはまるで、アパレルショップにはアパレルの知識に精通した店員が、家電量販店には家電に精通した店員がいるかのようだ。

チャットボットが今注目されるようになった理由

ボットという概念自体は急なものでも、特別新しいものでもない。もしあなたが宅配便の受け取り時間を指定したいと思ったら、専用の番号に電話をしてアナウンスに沿って番号をプッシュすることによって予約設定が済む。チケットをとったり、飲食店の予約をすることもできる。これももちろんボットの1つだ。
では、なぜ今さらになってボットという概念、チャットボットという仕組みが注目を浴びているのだろうか。

チャットボットが今トレンドになっている理由は1つだ。
自然言語処理の技術が発展したことによって、チャット上でボットが機能するレベルになったからだ。そしてそれにはAIの研究において切っては切り離せないマシンパワーの問題という背景もあるのだが、それは置いておくことにして、言語のやりとりをある程度違和感なくできるようになったのはごく最近のことなのである。
ついに技術的にチャットボットが実現したという説明がこの場合正しい。

コンピュータが会話をできるようになった影響

どれだけ機械が、技術が進化しても最も難しいのは人間らしく、人間にしかできな複雑な事象を処理するということであり、その代表例が『会話』であった。言語という非常に仕組みのあやふやな基盤上でさらには会話というのは背景知識を詰め込まないことには成立しない。(例えば、『昨日のサッカー見た?』という会話に対応するには昨日行われたサッカーの試合の中から会話を行っている者が住む地域の中で最もポピュラーなもの、例えば日本代表戦を選ばなければいけない。ここでブラジルの高校サッカーの1戦だと捉えるのは人間からするとおかしな話だが、コンピュータにはそれは難しい。)

人間が、チャットボットの場合はオペレーターや店員が今までしてきた振る舞いとそん色ないことを行うためには、今のタイミングでなくては不十分なのだ。やっと人間の多様な会話に対応するだけの可能性を時代が実現しただけの話なのだ。
そして、それは人間が今まで強制されてきた事務的なやりとりの数々から解放される最大のチャンスである。

2種類に分別されるボット

実は、ボットには2種類ある。というよりも、2段階あるという表現をした方がより正確かもしれない。
1つは、『メッセンジャーボット』と呼ばれるオペレーターのような機能をするボットだ。予約をしたいというアクションを投げかけると、日時はいつなのか、どの席が望みなのかといった決まった対応の中で予約が完了する。今までオペレーターのやってくれたことが機械によって完了する。

Facebookのボットストアでは、こういった行動をFacebook Messenger上であらゆる企業が行うことをできる。こういった類のメッセンジャーボットは、中国最大のメッセージングアプリ『WeChat(微信)」ですでに利用されている。
近いうちに全ての注文はボットが対応することになるだろう。

そして第2のタイプはチャットボットの可能性を無限大に広げてくれるものだ。『メッセンジャーボット』とは次元が1つ違うと言っていいだろう。『ユニバーサル(汎用)ボット』『インターフェースボット』と呼ばれるものである。

アマゾンの『アレクサ』を例に挙げて説明しよう。
アマゾンの音声認識スピーカー『エコー』にはアレクサが搭載されており、アマゾン内のサービスがまかなう音楽・動画の再生、食料雑貨の注文などをエコーに話しかけることでできる。あらゆる呼びかけに対して対応するのがアレクサであり1つ上の次元のボットである。

ボットが世界を変える理由

ユニバーサルボットの役割はこんなちっぽけなものではない。アレクサとUberによる融合を見てみよう。
アレクサのユーザーは2016年2月、Uberで車を手配できるようになった。『タクシーを呼んで』という呼びかけに対してアレクサはUberを手配する。

アレクサおよびユニバーサルボットの真価は、人間のする曖昧な要求に対して自律して最適な行動を先回りして判断して行うことにある。
人間はいつでも行動を具体的にイメージしているわけではない。音楽を聴きたいと思ったとき、それが何の曲なのかを決めているわけではない。自分の望んでいるものが何なのかを意識していることは逆に少ない。だからYouTubeで色んな動画を探したり、食べログでお店を決めたりする。

そういった”決める”という過程すら行ってしまうのがユニバーサルボットであり、ユーザーが望んでいるものを先回りして提示して、それを進めるのが高次元ボットの役割である。自分の生活の全てを行ってくれるアシスタントのように振る舞ってくれる。第1のボットがオペレーターならば第2のボットはさしづめコンシェルジュだろうか。

ボットが我々の生活を変えるとき

とはいえ、アレクサでさえも人間より賢いとは言いがたい。
先ほどのUberの事例のようにアレクサはすでにある程度パターンが存在する中で、タクシーという言葉に対して反応しUberという選択肢をセレクトしている。Uberのアカウントがなくても、アマゾンのアカウントを使って手配したり、あらゆる手間をアレクサを通して省いてくれるが、それはまだ完璧ではない。

ユーザーの振る舞いや要求に応じてアレクサなどのユニバーサルボットはそれを学習するだろう。『Airbnbでホテルを予約したいんだけど』と呼びかけることによってボットは(ホテルの予約をする場合はAirbnbを使うといいのかな…)とか、(この人のAirbnbのアカウントはこれだから言われたらこのアカウントにログインしよう)と今までの行動から先回りできるようになる。
そうした学習をボットが行うようになったとき、ボットは我々の生活を一変させるだろう。