モンストを生んだ革新的チームの作り方


かつてどん底にあったミクシィをV字回復させたのがモンスターストライクだ。
そのモンストが開発されたのは実は会議室の中だという。モンストを生んだチームはいかに作られたのだろうか。

ミクシィ、オワコンから大復活

ミクシィと言えば、当時高校生を中心とした若者の間で絶大的な人気を誇ったサービス『mixi』だった。それは、社名がサービス名になっていることからも分かる。SNSではFacebookが台頭してくるまで圧倒的な存在であった。そして、自然と人々に飽きられるとミクシィはオワコンと言われるようになった。

栄枯盛衰激しいITスタートアップの中で、モバゲーのDeNA、グリーのGREEがゲームを中心としたSNSで収益を倍増させていく中、ミクシィは終わった存在だと思われていた。そんなミクシィが再び活力を取り戻すのは、DeNAにGREEというプラットフォーマーからApple Store、Google Playという絶対的なプラットフォーマーへとシフトチェンジした頃、つまりネイティブアプリへと移行したのと時を同じくしてだった。

独立したアプリ上でゲームを行うようになったとき(DeNaやGREEはそれぞれプラットフォーム上にゲームが存在していた。)、お馴染みのパズドラなど新たなゲームパブリッシャーが爆発的なヒットを記録した。そしてその中にはあのミクシィの姿がいた。
オワコンと言われ続けたミクシィの売上高は今や当時の勝者であるDeNAにGREEを上回るものとなっている。

圧倒的なモンストの収益力

『モンスターストライク』は2013年10月のリリースから、15年5月には世界累計3000万ユーザーを突破している。モバイルアプリ市場レポートによれば、モンストはゲームカテゴリの収益ランキングで世界2位を記録している。世界で2番目に売れているゲームアプリがモンストである。

2016年3月期決算では、ミクシィの売上高は2087億円程度。それに対してエンターテイメント事業、つまりゲーム事業の売り上げは1953億円となっている。93%がゲームから生まれているという計算になる。SNSから、もっと前をさかのぼれば『FindJob』という求人メディアから生まれ、SNSに転換してその市場を制したミクシィは全く関係のなかったゲームのみで見事に他社を抜き去ったことになる。LINEと共同で提供しているマーベルツムツムも含まれるものの、その売り上げのほとんどはモンストによるものであろう。

はたしてミクシィはいかにしてV字回復を遂げたのか、モンスターストライクを生み出したのか。

あまりに不利な環境でスタートしたモンスト

ミクシィがモンストをリリースした2013年は苦境の時期だった。同年の4~6月期には上場来初の赤字を記録し、ついに堕ちていく企業の仲間入りという時期であった。しかし、モンストのヒットで翌年同期の連結決算では売上高493%増を達成した。2015年3月期には売上高は829%増という奇跡的な数字を達成する。

そのモンストが生まれたのは、なんと『公共スペースにある会議室』であったという。インターネットは来客用の回線のみで、社内ネットワークにはVPN経由でしかできない極めて不便な環境。そんな中、たった数人の社員でプロジェクトを進めていたのがそのスタートだ。

モンストが会議室で開発されていた理由

実は、モンストの開発が会議室で行われていたのには理由がある。
社外の人間が執務室で業務を行う場合、セキュリティの観点から事前に細かな手続きを必要としているが、モンストのプロジェクトチームは、社外メンバーと共同で開発を進めていくことがあった他、人の入れ替わりも激しく、執務スペースの細かいルールに合わせている時間がなかったのだという。

社内外の誰もが立ち入れる公共スペース内の会議室の一角で、フリーランスのデザイナーやエンジニアなど、社内外の様々なメンバーを巻き込みながらモンストのプロジェクトは進んでいった。プロジェクトチームのメンバーを拡大していく中で隣の部屋もその隣の部屋もと領域を拡大していき、最終的にはセミナールームを丸々1部屋つぶして業務スペースにしてしまったという。

ところが、そのままでは社内のネットワークに自由にアクセスできないこともあり、そのままでは支障が大きくモンストのプロジェクトメンバーは執務エリアに移行。このとき、ミクシィは入退室の手続きの簡素化やパートナー企業のメンバーにも社員と同じ法人向けPCを支給し、全社的な管理がおよぶIT環境で働けるようにした。

モンストが示した社内ベンチャーの在り方

モンストがヒットした理由はこうした、社内の在り方に囚われない環境でスタートしたことにあるのかもしれない。社内の細かいルールに合わせているのではスピード感を持って開発を行うことはできない。それが会議室の中で行われることになったことで会社の意向を気にせずベンチャー的に開発が可能になった。

そしてそのモンストは今やミクシィの売り上げのほとんどを占める。社内ベンチャーを行う企業はこの事例を大いに参考にすべきだろう。