なぜ学生は間違った企業に入ってしまうのか


3年以内に3割が退職するという新卒市場。
では、なぜ学生は新卒で自分とは合わない企業に入ってしまうのでしょうか。

就職人気ランキングの問題点

最近ちらっと就職人気ランキングというものを見ました。就活生がいきたい企業トップ100とかいう内容なのですが、トップに旅行代理店が入っていました。HIS、JTBなどの旅行代理店は常に根強い人気を誇り、就職したい企業の中ではいつの時代も上位に食い込んでいます。

気になるのは、社会人の選ぶ人気企業ランキングにはこうした旅行代理店は50位以内にも入りもしないということです。つまり、旅行代理店は(働いた経験のない)学生には人気だけど、(働いたことのある)社会人には人気がない業種の1つであるということです。就職人気ランキングはあらゆるマスメディアが集計をして発表していますから必ずしもどこでも同じ結果ではありませんが、トップ10に必ずと言っていいほど旅行代理店は入ってきます。

学生と社会人の評価の乖離

私は、どこの業種がいいとか、どこの業種は悪いということを言おうとしているわけでありませんし、そもそも就職活動すらしたことないですから、そこについてはよく分かりませんが、学生と社会人の間でここまで評価が乖離するというのはおかしな話だなということです。また、銀行などの金融もこうした乖離がある程度見られる業界です。

おそらく、社会人の評価の方が正しい可能性が高いでしょう。何も知らない学生よりも社会人になれば周りの友達もみんな社会人です。『一流企業に行ったあいつは充実してそうだな』とか『金融のあいつは辛そうだな』とか『あの企業いったあいつは激務過ぎてすぐ辞めたな』とかそういう情報が増えるのです。だからより実態を知れるわけですが、学生はそうはいきません。

起業がアピールしたりなんとなく消費者として知っているイメージは違うわけです。アニメが好きで、アニメを作りたいと思ったとしても、アニメは1秒に16コマという画を連続させて表示させるという形で成り立っています。アニメが好きなこととこの地味な作業に向いていることは全く違うのではないでしょうか。
では、はたしてなぜこうしたイメージの乖離が生まれるのでしょうか。

消費者として好きと仕事にするは違う

当たり前のことですが、旅行が好きで旅行に関連した仕事をしたいと思っている人は旅行代理店の行っている業務については詳しくありません。
というかそもそも消費者として好きであることと事業者として好きであることは違うわけです。

私は、SEO対策をはじめとした『webページをいかに多くのユーザーにリーチするか』という業務を行っているわけですが、特別ネットサーフィンが大好き!というわけではありません。まあわりかしネットサーフィンは好きかもしれませんが、消費者としてなら家電やスポーツの観戦などが好きな気がします。でもそうした消費者として好きなことではなく、事業を行う上でのデータを解析したり、1週間スパンで高速でPDCAを回すということが好きなわけです。

では、旅行が好きな人は”旅行代理店としての業務”は好きなのでしょうか。旅行代理店はホテルや移動手段の手配を行ったり、そのために色んな観光事業者へコネクションを作って話をまとめたり条件の折り合いをつけたりするわけです。要するに、旅行における幹事の役割を担っているわけです。そして、その役割は幹事よりも大変です。幹事は旅行のスケジュールや行き先が決まっているところに対して仕事を行いますが、旅行代理店は逆です。そもそも、何人くらいの人が旅行にいきたいかなんて分かりません。その中であらゆる計算を行って旅行の手配を行います。さらには、街中でポスティングしたりして『旅行行きませんか?』みたいな営業活動もしなければいけないのです。

ものすごい好きでない限りはそれを職業にしない方が良い

業界を考える上でわりかし当たり前の話なのですが、『テレビ』『出版』『ホテル』『ウエディング』『旅行』など、消費者として非常に憧れを抱きやすく、それが好きで就職する人が多い業界ほど過酷です。なぜかというと、テレビが好きな人はテレビや芸能人に憧れがあるし、多少過酷でも辞めないからです。要するに、あなたがその業界が好きで就職したとして、あなた以上に大好きで激務を厭わない人がいることが多いのです。

インフラなんかは逆です。別に電気が好きな人とか、ガスが好きな人は特にいませんから、激務に耐えてまでやろうとは思いません。ただ、その代わりインフラというのは事業として安定しているので利益が安定して出ますからあんまり働かなくても成立します。安定しているけど人気のあるテレビ局が高給ではあるものの激務なのと対極です。(制作会社は当然薄給激務です。)

このように、魅力のある業界ほど激務という面白い現象が起こります。魅力があるがゆえに”そこまでしてでも働く”という人が存在するとその激務に基準が合わせられるという現象です。芸能人の給与体系とかも一部の売れっ子を除いて同じことが起こっていますね。

金融業界が激務なわけ

では、銀行などの金融の業界の場合はどうでしょうか。お金が好きだ!札束を撫でていたい!という人はいません。お金が好きな人がいたとしてもずっと札束を数えていたりATMを流れていたい人はいないから人気なのは不思議な話です。では、なぜ金融の業界に人気があるのかというと、それはスマートにお金を動かしているようなハイテクなイメージがあるからです。しかもめちゃくちゃ複雑で専門性のあるテクノロジーなどと違いとっつきやすい。

お金というのは最もコモディティな商品です。コモディティというのは機能や性能がどこでも一緒ということです。当たり前ですね、どの銀行から借りても100万円は100万円です。別になんの違いもありません。では、多くの顧客(借り手)を集めるためには金利を下げたりするしかありません。しかし、金利を下げまくっていたら利益が出ないのでこれをするわけにはいきません。

となると、金融事業者がどういうことをするかというと、ひたすら営業するわけです。大して借りる必要もない中小企業のところに毎日足を運んで『お金借りてください』と頼み込んだりするわけですね。証券の場合だと、老人のところにいって、『これからの時代は運用です』とか言うわけです。金融の業界の特徴として、『お金を借りる必要がないくらい儲かっている人に借りてもらった方がいい(お金を借りなきゃいけないほど火の車な会社には貸したくないですよね)』し、『運用なんてよく分からないし別にいいやという人に証券を買ってもらった方が良い(本気で運用を考えている大きな事業者や富裕層は手数料の少ないETFなどを購入するから利幅が少ないです)』ということになります。

もちろん、全てがそうではありませんが、金融というのは必要ない人にサービス提供した方が儲かりがちといういびつな構造なわけです。多くの人が想像している”スマートな理論でお金を動かすことによって利益を生み出す”という業務はほとんどありません。そんなもの一部の天才みたいな数学のスペシャリスト(クオンツとか言いますね)とかが考えるわけです。金融業界の会社員の99%はそうした数式などに触れることはありません。世の中でクリエイティブなことをしている人間はごく一部のめちゃくちゃ勉強しているめちゃくちゃ頭のいい人なのです。

だから、金融の業界に入ると『いらない商品を人に勧めたくない』ということに悩むことになったりするわけです。大変で忙しいというよりも精神的なダメージは非常に大きいのではないでしょうか。

実際の業務を知る

銀行もバカじゃありませんから、こうした悲惨な実態をなんとしても学生に知られたくないと思うわけです。メガバンクのインターンにいくとそこで行うのはケース問題とか呼ばれる『この候補の中からどこの会社に貸すのがいいでしょうか』みたいな頭を動かすことをするわけです。それをグループディスカッションして盛り上がるわけですね。
しかし、銀行に実際に入るとまず始業時間前にいって各支店の周りの掃除をしたりするわけです。そして動かすのは頭ではなく足です。そういう地道な部分は見事に隠されているのです。

学生に必要なのは、そうした実態を知ることではないでしょうか。そういう知る機会がもっと広がれば離職率の低下も実現されるのではないかと思う次第です。