テクノロジーはいつも話題ばかりが先行する。
我々が予想したように生活が一変しないのはなぜなのだろうか。
テクノロジーはすぐには実現しない
こんな報道や発言を見たことがないだろうか。
『AIによってほとんどの人間がロボットに置き換わる。』
では、あなたの周りで最も身近なロボットに置き換わった事例はなんだろうか。はたしてそれをあなたは思い出すことができるだろうか。
ご察しの通り、テクノロジーでこうなる!ということが言われていて、しかもそれは非常に現実味を伴うものであったとしても実際にそうなることが起こるというのはほとんど見られない。労働者はロボットに置き換わっていないし、未だにマクロを使えない人がエクセルを一生懸命いじっている。業界によっては、未だにFAXを使用しているところもあるのだからこんな不思議なことはないだろう。
最先端のテクノロジーはなぜ我々の生活を変えるまでに時間を要するのだろうか。グロービス高宮慎一氏がその理由を語っている(出典 http://note.mu/)のでその要点をお伝えしたい。
テクノロジーアウトとマーケットイン
その理由はテクノロジーアウトとマーケットインの距離感にあるという。テクノロジーアウトとは、『こんなテクノロジーが生まれたからこれを使って何かしよう』というアプローチの方法、マーケットインとは、『今の世の中でこんなものが必要とされているからそれを解決する何かをしよう』というアプローチの仕方になる。
つまり、テクノロジーを最初に考える方法とマーケットを最初に考えるそれがあるということである。
当然、技術者が何かビジネスを考える際にはテクノロジーを用いて発想をする。既存産業の人間の場合はマーケットの動きになる。しかし、技術者はマーケットに詳しくないし、既存産業の人間はテクノロジーのことは知らない。一般的にマーケットの課題とテクノロジーの進歩が融合することで新たな産業が生まれるのであるが、それが起こりにくいことに原因があるのだという。
マーケターとして優秀な技術者が必要に
一般的に多くの場合、新しいテクノロジーが俗世間に広まる際には、スタート地点に技術者がいることが多い。しかし、技術者は既存の産業のことを理解しているわけではない。だから、そこでそれを支える人材や既存産業への理解が必要になる。これがないと、テクノロジーがどれだけ素晴らしくても実用的な形にはならない。新たな技術が生まれてもそれをいかにして世の中に広めていいのか分からないのである。
アメリカでは、テクノロジーを学び学位を取得した技術者がMBAなどマーケット周りの修士号を取得するケースが多い。つまり彼らはテクノロジーもマーケットも知っているということになる。高宮氏は上述の記事でテクノロジー周りとマーケット周りの人材を交流させる場が必要だと語っているが、本誌ではこれを一歩先に進めて、そもそも1人の人材が両方を兼ね備えていることを望ましい形だと提言したい。
2人の人間が話し合える時間には限界がある。それよりも1人の人間が頭の中で常に引き出しを開けながら考える方が望ましい結果が出るのではないだろうか。
Appleのスティーブ・ジョブズ、Facebookのマーク・ザッカーバーグ、Amazonのジェフ・ベゾスらはそれぞれもともとエンジニアである。マーケットを見ることのできるエンジニアが経営者として圧倒的な功績を残したということであろう。エンジニアは技術のことだけ見ればいいという考えがこうした天才の誕生を妨げているのかもしれない。