AIが記事を書いたけど人間の仕事はまだまだなくならない


記事を執筆したのがAIであることが分かり、話題になりました。
AIが記事を書けるようになったら多くの仕事がAIに変わっていますのではないかという懸念もまたあるでしょう。しかし、AIの仕組みを本当に理解すればまだまだ人間の仕事を代替できるようにはならないことが分かります。

AIが記事を執筆

日本経済新聞においてAIが記事を執筆したというものが話題になりました。
ちなみに以下がその文章の一例です。

 富士通ゼネラルが25日に発表した2016年4~12月期の連結決算は、純利益が前年同期比75.7%減の27億円となった。売上高は前年同期比11.9%減の1733億円、経常利益は前年同期比12.6%減の144億円、営業利益は前年同期比4.2%減の159億円だった。

 損益については、空調機では販売物量拡大と原価低減を進め増益となったが、情報通信システムの減収影響をカバーするに至らず、営業利益は減益、経常利益は減益となった。空調機部門では、海外向けの現地通貨ベースでの販売は伸長したが、円高に伴う海外売上高の円貨換算減により、売上は前年同期を下回る結果となった。

 2017年3月期は純利益が前期比54.4%減の80億円、売上高が前期比5.7%減の2650億円、経常利益が前期比15%減の220億円、営業利益が前期比5.5%減の260億円の見通し。

決算短信に関する記事でこうしたAIによる執筆が行われていますが、いくつかの記事を見る限り、ある程度決まったフォーマットの中で執筆がなされていることが分かります。AIというにはちょっと単純すぎるかなと思うレベルではあるわけです。

 {$社名}が{$日にち}日に発表した{$期間}期の連結決算は、純利益が前年同期比{$純利益_前年同期比}の{$純利益}円となった。売上高は前年同期比{売上高_前年同期比}の{$売上高}円、経常利益は前年同期比{$経常利益_前年同期比}の{$経常利益}円、営業利益は前年同期比{$前年同期比_営業利益}の{$営業利益}円だった。

このような形で、数字をそのまま当てはめれば第1段落は構成が可能です。これだけなら大学生がちょろっとプログラミングを勉強すればできます。第2段落についてはAIらしいことをしている可能性もありますが、文章をくっつけて構成しているのではないでしょうか。接続詞などをスムーズにするくらいだったら今の技術で当たり前にできます。

AIができることはまだまだ

AIが記事を書いた、といっても決まったフォーマットの中でしか記事を作れないわけです。例えば、『富士通ゼネラルの業績が落ち込んだのはなぜか』みたいなお題をAIに与えて記事を書かせようとしても当然できません。
あくまで文章の中に数字を当てはめているようなレベルでしかありませんので文章を考えることはできないわけです。

今の時代というのはAIがバズワードになっていますから、実態よりも過剰に期待や可能性を寄せている状況です。AIと言ってもできることはたかが知れています。特に、言語に関してはめちゃくちゃ難しいです。論理的に会話をすることもめちゃくちゃ難しいわけです。

今回のAIが記事を書いた、というものの他にはレントゲン写真などから患者の病名を当てるみたいなやつでは、AIが医者に優っている事例も多く存在するようですが、AIはその根拠を応えられません。人間のように論理に基づいて因果関係を明らかにして推測をしているわけではなく、膨大なデータの中から確率論で導いているに過ぎないからです。これは囲碁の世界チャンピオンに勝ったAlpha Goにも言えることです。

AIよりも先に機械化すべきところがある

とはいうものの、この事実を受けてなんとなく不安を覚える人も多いのではないでしょうか。今まで”AIであなたの仕事がなくなる!?”みたいなことを書いていた記者たちは自分の仕事がなくなる可能性をつきつけられているわけですから当然穏やかではありません。

記事によっては上記に挙げたような単純作業で決まったフォーマットの中で書いている記者もいるはずです。その言わば”ただの入力作業”は当然機械によって代替されていくわけです。(それをAIと呼ぶのはさすがにAIに失礼になるとは思いますが。)

AI以前にそもそも機械でできることをわざわざ人間が時間をかけてやっていることは今でもたくさん存在します。エクセルに帳簿を手打ちしているケースも、何度も同じ作業を繰り返しているケースもあるわけです。世の中の仕事というのは極めて非合理的です。その部分が真っ先に機械化されるべきでしょう。

AIはそう簡単に仕事を奪わない

AIが仕事を奪う、とよく言われていますが、今の新入社員が定年を迎える40年後くらいならいざ知らず、あと10年くらいなら仕事がどんどんなくなるということは起こらないのではないかと思っています。そもそもコンピュータやロボットでできることでも現時点でその多くが人間によって行われています。機械が進化してもそれを使う人間、そして仕事の仕方を決める経営者はバカなままなわけです。

それが急にAIができました、なのであなたは明日からクビですとはならないでしょう。現時点ですでに必要ない経理の仕事の多くであったり、事務的な処理は当然徐々に機械に変わるでしょう。ただそれは今までと同じくらいのペースで進むはずです。

AIはビジネスを成功させることができるのか

755が失敗した理由を徹底考察する

例えば、この記事では、755が失敗した理由について述べています。人間はこのような事例から『こういうパターンだと失敗するのか』とか、『755が失敗したから同じようなサービスはきっとウケないなあ』とか学習することができます。
では、AIが仮にサービスを作ったとして人間と同じ精度で成功させることができるのでしょうか。

最も問題になるのは、AIは人間の感情を理解できないということです。我々は人間ですから『自分だったらこんなサービスがほしいな』とか想像することでより正確にユーザーのニーズを掴むことができます。つまり、ユーザーの心理を先読みができるということになりますが、AIにはたしてこれができるでしょうか。
人間とは全く別のアプローチでサービスを作っていくことになります。そういった意味で非常に難しいというのはまあ自然な話です。

AIには時間がかかる

AIはたしかに驚異的な存在です。ある日あなたのできる全てのことをできるコンピュータが生まれたとしてたしかにそれは自分の存在価値や仕事をなくす可能性のある事態かもしれません。
ただ、今現時点で呼ばれているAIというのは大したことはできません。たしかに囲碁などルールが明確に決まっていて選択肢も100くらいのものであれば人間より遥かにパフォーマンスを発揮しますが、会話とかになるとほとんどできないわけです。

今のAIが行っていることはしょせん定型的なパターンを学習させているに過ぎません。まだまだ乗り越えなくてはならない壁がたくさんあります。しかもそのくせにめちゃくちゃな設備やエネルギーを必要とします。Alpha Goのサーバーコストは一説によると年間30億円を超えると言います。囲碁などの競技は1位を目指すものだからそれでもいいかもしれませんが、多くの仕事においては世界チャンピオンを量産する必要はないわけです。

世界チャンピオンを量産するのが目的ではなく、業務をこなすのが目的です。そうなったときに30億円かかる設備を用意して回収できる職場はどれだけあるのでしょうか。AIというのはあくまでまだまだなわけです。
AIを心配するのはいいですが、AIで人間の仕事をなくすのはまだまだ現実的ではありません。