セブン銀行が変える銀行の在り方


我々が日常の中で自然に使うセブン銀行。
ただのATMと思っているようだが、そのビジネスモデルは従来の銀行の在り方と全くものである。セブン銀行の存在によって今後の銀行の姿はどう変わっていくのだろうか。

セブン銀行の圧倒的な利便性

コンビニで手軽にお金を引き出すことも入金も、振り込みもできる。セブン銀行を使ったことが一度は誰しもあるだろう。コンビニ最大手のセブンイレブンの多くの店舗にはATMが置かれており、これによって銀行のATMにいく機会がなくなった消費者も少なくはないはずである。

セブン銀行のATMでは大手銀行から地方銀行、ゆうちょ銀行に信用金庫まで、国内約600の金融機関のキャッシュカードが使える。さらにATM自体が英語やフランス語、中国語など12ヶ国語に対応している。ATMとしての利便性は極めて高い。

セブン銀行導入前、セブンイレブンにはコンビニでお金を引き出せたら便利という声が寄せられていたという。同社は以前から公共料金などの収納代行を行っており、若者などにとっては夜間や土日でも気軽に支払えるコンビニの方が便利であった。

セブン銀行が大きくなった経緯

セブンイレブンはまず銀行との提携でATMとして事業に参入しようと考えた。しかし提携だと、ATMが設置銀行の出張所扱いになる。そのことでサービス内容を自分たちで決められないなど自由にならないことが多く、自ら銀行業の免許を取得することになったという。
2000年前後は、金融機関の破綻もあって、ソニー銀行、ジャパンネット銀行などが認可されてきた。そうした背景もあってセブン銀行は誕生した。

また、通常は銀行のATMであれば出金の方が多く、かなりの頻度で現金を入れなければならない。
ところがセブン銀行はこれが1ヶ月に1回とかなり少ない回数で済んでいる。それを可能にしたのが、『売上金入金サービス』と呼ばれるものである。他社が店舗などの売上をセブン銀行のATMに入金するサービスである。専用のカードによって入金された現金は一括で管理が可能になる。

この売上金入金サービスは、セブンイレブン店舗の売上の入金から始まり、夜間営業の店舗や、ガソリンスタンド、コンサート会場などイベント売上といった広範囲に広がった。こうした事業者たちの夜間倉庫代わりに役立つことになったのである。
入金者からすればセキュリティが維持でき、セブンイレブンからすればたびたび現金を入金する必要がなくなる。

セブン銀行驚異のビジネスモデル

セブン銀行の2016年3月期決算は、売上高が1200億円、利益が371億円ほどとなっている。つまり、利益率は30%ほど。セブン銀行の売上の90%以上がATMの手数料となっている。
全国でのATM設置数は2万3000ほどで1台あたり年間550万円ほど。年間の総利用回数は8億回にもなる。1回あたりの売上高は150円ほどで通常の引き出し手数料の水準とおおよそ一致することが分かる。

通常、銀行業における収益源は顧客から預かった借金(預金)を企業に貸し付けることで成り立っている。いわば銀行はそのお金を預かることを目的としてATMを口座保有者の利便性のために作っている。それを覆したのがこのセブン銀行のビジネスモデルだ。

銀行のアドバンテージがなくなる瞬間

大手メガバンクの1つのアドバンテージがこのATMの存在ということになる。我々がメインバンクを選ぶ際の1つの基準としてこのATMの設置数があるのではないだろうか。いつでも引き出しができることでメインバンクとして選ぶ理由ができる。一方、地方銀行やネット銀行はATMがほとんどなく、預金者は好きなときに引き出しをできない銀行を選ばない。

しかし、これがセブン銀行の全国に設置したATMによって変わる。すぐにメインバンクを移すことはないものの、メガバンクの持つアドバンテージは薄れつつある。口座を作るのだったらネット銀行の方が利便性は高い。
銀行は借りたお金を貸すことで成り立っているが、その元手になる預金が動く可能性があるだろう。

FinTechへはまた1つのカギが必要

とはいえ、セブン銀行ができたからといって預金者はメガバンクの口座を解約するわけではない。そう簡単にお金が動くわけでないのは、進歩のスピードが極めて速いIT業界と異なる部分である。
銀行の口座を有しているのは個人だけではなく企業でもあるし、ATMだけで大きな変化はそうないと言える。

今後FinTechなどの存在によって大きな動きが予想されるのが金融である。その中でATMの自由化(セブン銀行の存在によってネット銀行もお金を出し入れが容易になる)は1つのきっかけになるはずだ。

あくまで、それだけでは銀行業のパラダイムシフトにはならない。大きな利便性を持った何かが生まれれば既存の銀行勢力は一気に崩壊するかもしれない。