イギリスのEU離脱に見る世界の失態


イギリスはなぜEUを離脱するに至ったのでしょうか。
そして、それはEUという仕組みの失敗を意味することになりそうです。

イギリスのEU離脱は決定的に

昨日2016年6月24日、イギリスの国民投票によってイギリスのEU離脱が決定的となりました。マーケットの動きを見れば分かるように、非常に大きな影響があることは間違いないでしょう。ここ10年でもこれ以上の衝撃があるかというほどに大きな出来事でした。投票結果が出てすぐに議会へと取り消しを求める署名が届いていることもまた事態の大きさを表しているように思えます。

今回離脱派多数になった要因は様々あると思うのですが、そのことについては本誌で後日詳細に扱うとして、私が感じたのはそもそもEUという制度が失敗なのか否かという点です。多くの経済学者は、官僚は、国家はこの結末を予想していたでしょうか。イギリスの離脱以前にギリシャの財政が崩壊し、EUという制度がユーロという共通の通貨が歪みを生むことを予想していたのでしょうか。もしも、こうした現状を予想すらできていなかったとしたらそれはなぜなのでしょうか。

政策には必ず見落としがある

私の考える結論から先に述べると、物事には必ず見落としがありそれが増大して悲劇を生んでしまう結果になるということです。今回のEUの失敗もまた、見落としがこうした悲劇を生んだと言えそうです。人間は必ずしも冷静な判断をできません。それは多くの人が合わさればなおさらです。それを証明したのが日本の戦争でしょう、多くの人々が誤った判断をし、それは大勢だったがゆえに過熱しました。

人間というものはそもそも、多数になればなるほど強気になり、冷静な判断ができないようになっています。集団で騒いでいる若者たちは1人だけでは大人しいでしょう。ところが、多数になった途端に不安や冷静な感情がなくなって暴走するようにできているわけです。政策も同じだと想像されます。考えるときには当然ポジティブに理想を目指して作ります。それが実現しかかるにつれてどんどんと勢いを増していくことで、欠点にいつの間にか気が付かないようになるでしょう。

EUもまたそうしたことで見落としがあったのかもしれません。欧州の人々が理想的に暮らすために作られた制度は、それによって生まれる欠点を見落としていたのではないかと考えられるわけです。その1つが今回イギリスがEUを抜けることになった要因の1つである移民の問題、経済的にはギリシャの財政破綻ということになるでしょう。

EUはなぜうまくいかなかったのか

EUはそもそも、戦後フランス、西ドイツ、イタリアらによって設立された欧州石炭鉄鋼共同体に端を発します。経済の発展に欠かせない石炭と鉄鋼の共同市場を創設することになり、これが西ドイツをはじめとした国々の経済発展を後押しします。これが、1950年代のことですが、このときに加入しなかったイギリスの経済発展はこれらの国々には劣るわけです。
その後、アメリカという大国に対抗する狙いもあってかヨーロッパ諸国は結束を強めていきます。それが結果的にEUという1つの組織になったわけです。EU内での人やモノの移動をシェンゲン協定や関税の撤廃などにより促進し、1つの国として振る舞うようにすることでヨーロッパ諸国で結束して成長する狙いがあったわけです。

ここまで聞くと素晴らしい制度に見えるかもしれません。実際、欧州石炭鉄鋼共同体は戦後の経済成長を大いに後押ししたと言えるでしょう。とはいえ、これが経済成長が停滞に入り始めたらどうでしょう。イギリスは経済的に豊かですから、EU内でうまくいっていない国(ギリシャが最たる例ですね)を支援する必要も出てきます。日本が、東京で稼いだ税収を地方を支えるために使っているのと同じです。だってなぜならEUで1つの国として頑張っていくのだから。EU内の貧しい国の人は収入を求めてドイツやイギリスなど経済水準の高い国に出稼ぎにいきます。日本でも地方在住の若者が夢を抱えて東京に向かいますよね。
これもまたEUで1つの国ならば国の中でどこに住もうと自由でなければいけない。イギリスにもともと住んでいた人がそれで生活しづらくなってもEUで1つの国なのだから当たり前のことだ。

とまあ、このように悪い点もいくつもあるわけです。このようなことは当然様々な国で起こっています。どこの国も都市部が地方部の財政を支えています。しかし、問題にならないのはそもそも1つの国として当たり前のように共同体だからです。EUのように各々の国として存在しながらも1つの共同体になろうとする上では不満も起こるのは自然な話です。

政策の難しさ

EU最大の問題点は、通貨を統一したことにあるのかもしれません。ギリシャは財政危機に陥りましたが、通常そのような場合には自国の通貨を多く刷り、通貨の価値を下げることによって債務を減らそうとします。そうすると通貨が安くなりますから貿易黒字になりやすいというわけです。こうして債務を減らしつつ経済を整えるのが一般的な在り方ですがギリシャはユーロを用いているだけにそうした機能が働かないわけです。
イギリスにとってはユーロを使っていないので関係ない話ではありますが、こうした形で財政が苦しい諸国を助けなくてはいけません。もしこれが東京都が福岡県の財政赤字を助けるという形ならそもそも同じ国の中だからなんとも思わないにしてもEUでは不満がたまります。

多くの政策ではこうした人間の感情と勘定を読み誤ることで失敗します。財政赤字国を救わなければいけないことによる不満という感情、そして本来共同体で支えはずだったEUを見捨てるという勘定。EUという制度を考える際にはこうした部分を甘く見ていたのでしょう。うまくいっていたときにはあったはずの信頼関係は今やないのですから。

政策はビジネスとは違います。企業は嫌いな人のことは考えずにサービスを作ることができます。なぜなら、そのサービスを使わないという選択肢が人々には与えられているのだから、自社のサービスを使ってくれている人のことのみを考えればいいだけです。『文句があるなら使うな』これが通用するわけです。ただ、政策はそうはいきません。全ての人がその対象となります。これが今回のEUの問題で顕在化した難しさと言えるでしょう。