クラウドワークスがダンピングの温床となっていると批判の的になった。
新しい働き方を提案したはずのクラウドソーシングサービスはどうなるのか。
クラウドワークスが叩かれる
クラウドワークスとは「クズが発注してバカが請けるサイト」だ。あなたがバカなエンジニアではない限り、利用するべきではない。
こんな文章を見かけました。クラウドワークス叩きにおける一連の流れにおけるものであり、その発端はクラウドワークスが月収20万円を超えるクラウドワーカーが111人であると発表したことにあります。クラウドワークスにおけるワーカー数が80万人であるとの発表からすると月収20万人に達するのはおおよそ8000人に1人という非常に狭き門であることになります。プロフェッショナルな仕事を請け負うとクラウドワークスが発表しているプロクラウドワーカーが4000人であることからも、少なくともプロクラウドワーカーの97%は月収が20万円に達していないということになります。
クラウドワークスやランサーズはもともと人々の働き方を変えるものであったはずが、実態はいい加減な業者のダンピングの場にしかなっておらず、内職とさして変わらないレベルの最低賃金にすら及ばない労働を強いられているという主張がこのクラウドワークスに対して寄せられた批判なわけです。
クラウドワークスで起こる異常なダンピング
私自身、クラウドワークスやランサーズのサイトを拝見したことがありますが、たしかにダンピングは起こっています。それぞれにおける発注単価は一般的な業者の10分の1程度だろうと思われます。自分自身もこうした受託制作によって経営をしていましたが、この単価の3倍はないとやっていけません。学生の経営していたぺーぺーの企業ですし、なおかつできる限り最速で終わらせるとしても3倍はもらわないと成立しないわけです。さもなくばコンビニバイトの方がいいんじゃないかというレベルですらあります。そもそも一般的な業者はITゼネコンの形式上、かなりぼったくっていて中間マージンが発生しているのでそれはそれで適正価格ではないわけですが、それにしても安すぎるわけです。
フリーランサーを生む仕組みとしてはそうしたダンピングが起こっている中ではなかなかに難しいことが分かります。とはいえ、業者はできる限り安く発注したいわけですし、その価格で請ける人がいる以上現状を解消することもなかなか難しいのではないでしょうか。オフショア開発だなんだと言われている時代ですから(そして国によっては日本の10分の1の単価で発注ができる場合もあります)、そもそも単価を抑えようという動き自体が起こっている中でそれは仕方のないことなのかもしれません。
全ての仕事についてこうした動きはあります。コモディティ化した仕事が高い価格を維持することはありませんし、市場の原理としてそうした価格競争が働くことはわりかし容易に起こるわけです。それ自体はもしかすると実に仕方のないことであり、しかしながらこの社会における根深い問題なのかもしれません。それが顕著な形で現れたのがクラウドワークスなわけです。
なぜSIerは高いお金を得られるのか
では、不思議なことが出てきます。なぜ、ほとんど同じ仕事をしているのにSIer(システムなどの受託制作を行う会社)は儲かっているのでしょうか。クラウドワークスの10倍の単価で仕事をもらっているわけです。なんでそんなことが起こるのでしょうか。おおよそ同じ仕事をしているのにも関わらず儲かる企業と貧する個人がいるのはおかしな話です。
答えを言ってしまうと、これが企業というブランド、そして信頼感によるものです。そして営業力の差でしょう。高い価格を維持するための戦略、ブランド力と営業力があるかないかの差がこの10倍というものを生んでいるわけです。例えば1000万円のシステムを大手の企業に発注しようとしたときに、横から出てきた個人が『俺なら500万円でできるよ』と言われてもはいお願いしますとなるでしょうか。本当に仕事をしてくれるのかと疑ってしまうに違いありません。これが価格差を生んでいるわけです。
クラウドワークスやランサーズはこうした信頼をサービス上で担保しようとしたのでしょう。個人でもサービス上の評価が高ければSIerほどまでいかなくともそれに近い単価が維持され、信頼というものが形成されるまでのコストを短縮できるというのがサービスのコンセプトであるわけです。ところが、それはそううまくはいかず、信頼に値しない業者とワーカーのやりとりになっているように思えます。
クラウドワークスの数字は本当なのか
ではそもそも、クラウドワークスの数字は本当なのでしょうか?
私が言いたいのは虚偽の数字を載せているということではありません。数字から見える実態が現実とは異なっている可能性があるということです。仮にクラウドワークス上にものすごい凄腕のエンジニアがいたとしましょう。仮にその彼がいたとしてずっとクラウドワークスを使い続けるでしょうか。
私が言いたいのはこういうことです。彼がそれなりのレベルの高い案件をこなしたとして、企業は彼にクラウドワークスを通して仕事を発注し続けるでしょうか。クラウドワークスを飛ばして直接仕事を発注するのではないでしょうか。手数料は10%、最大でも数万円あるわけですから、それを払う義理はありません。優秀なワーカーほどいなくなるという実情を予想するのは難しいことではありません。現に私も周りでも、ランサーズを経由して直接で契約をデザイナーと結んでいる不動産会社が存在します。
仮に111人しか月収20万円を‟クラウドワークス上で”稼ぐ人間はいなくとも、クラウドワークスによってもたらされた仕事で月収20万円を稼ぐ方はたくさんいるのではないかと想像できるわけです。今回の件を受けて『クラウドソーシングは稼げないんだ!』という発想にいく方はあまりに数字に弱く頭も弱いと言わざるを得ないでしょう。
クラウドワークスの課題
クラウドワークス(そしてランサーズ)における課題は、直接取引する以上のメリットを手数料を払ってもそれでいいと思わせる程度に提示させなくてはいけないでしょう。UBERやAirbnbそしてヤフオクなどのC2Cサービスは取引ごとに新たな顧客を見つけるわけですからそこに使い続ける理由があるわけですが、それはクラウドソーシングサービスには当てはまりません。
クラウドワークスを経由し続けるだけのバリューを生み出せるかが今後の課題になってくることでしょう。