経営の神様ドラッカーが語るリーダーシップの6つの本質


リーダーというと、人に指示を出し人を動かすことが仕事のように思える。
しかし、経営の神様ピーター・フェルディナンド・ドラッカーはその見解を否定する。ドラッカー曰く、多くの人がリーダーシップに対して誤った考え方を持っている、リーダーの役割は人を動かすことではない。

ドラッカーの語るリーダーシップの本質とは

ドラッカーと言うと、オーストラリア人の経営学者であり、現代経営学やマネジメントを生み出したとされている。「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という岩崎夏海氏の著書は話題になり、2010年の流行語大賞にノミネートされるほどになった。

人を動かすことがリーダーシップでないと語るドラッカー。では、リーダーシップの本質とは何なのか。
そこで、今回は経営の神様ドラッカーのリーダーシップの本質を6つにまとめた。組織で成果を出したいと思っている人であれば、今直面している課題や悩みの解決の一助となるだろう。

組織の環境をマネジメントする

まず、リーダーの役割とは人に指示を与え人を動かすことではない。
リーダーの役割とは人が自発的に動けるように組織の環境をマネジメントすることである。というのも、上下関係や自分が指示するだけで人は動くわけではない。
人を動かすだけではそのチームが高い成果を出すことはできないだろう。よって、チームで高い成果を出すためには人が自発的に動けるように組織をマネジメントすることが必要だ。

では、人が自発的に動ける組織のマネジメントとは何をすればいいのか。それは、リーダー自身の行動、態度、発する言葉が組織の環境を形作り、それが組織の空気となるということを自覚することだ。リーダーがどういうメッセージをメンバーに発信するのか、リーダーの行動や態度そのものをメンバーは「こんな組織にしたい」というメッセージとして受け取りそれが組織の空気を作っていく。人が自然と動くようにするにはリーダーが何を考え、何をしたいと思っているか、それを徹底的にメンバーに伝えることが大切。

「あまりにも多くのリーダーが、自分のしていることとその理由は、誰にも明らかなはずだと思っている。そのようなことはない。多くのリーダーが自分の言ったことは誰もが理解していたと思う。しかし誰も理解などしていない。成果を上げるには、自分をわかってもらうために時間を使わなければならない」

P.F.ドラッカー「非営利組織の経営」P.30

そう、自分が組織の環境を形作るということを自覚し、自分の想いや考えがメンバーに伝わることが大切なのだ。そのために多くの時間をかけることは厭わない。

目標を共有する

次にリーダーがやるべきことはチームを一緒に作り上げ目標を共有することだ。チームのメンバー、各々が抱く考えや思考や見ている景色は違う。ただ仕事を振り振られ指示を受けるだけでは「なぜ、自分はここにいるのか?」という存在意義を無くしかねない。

そうならないためにはチームを一緒に作り上げ、目標を共有することが肝要だ。チームを一緒に作り上げ目標を共有することでただ関わっているのではなく、当事者意識を持って組織に関わることができ、結果的にメンバーや一人ひとりのコミットメントが強くなり高い成果を出せるチームになる。

ミッションを問う

次にリーダーがやるべきことはミッションを問うことだ。
「なぜ私たちがこの仕事をするのか」という問いは案外忘れがちだ。チームの目的など誰もが当然わかっていると思いがちだが、一人ひとりが仕事に求めるものや見ている景色は異なる。それを理解した上で一つの使命感を共有することが大切だ。
そして、価値観を共有しお互いの仕事への思いを知り、その上で皆が納得できるチームとして価値観を共有することが大切なのである。

「実は、『われわれの事業とは何か』との問いは、異論を表に出すことに価値がある。それによって、お互いの考え方の違いを知ることが可能になる。互いの動機と構想を理解したうえで、ともに働くことが可能になる」

P.F.ドラッカー「マネジメント(上)」P.98

全員が全く同じ目的で、同じ価値観で、同じモチベーションで働いている組織など存在しない。故に、ただ仕事を割り振り指示を出すだけではその組織で高い成果を出すことはできない。なぜなら、一人ひとりの気持ちが同じ方向に向いていないだけではなく一人一人の実現したいことが無視される可能性があるからだ。

では、どうすればいいのか?一人ひとりの想いや実現したいことを理解し、そこから共通項を見い出し全員の想いが込められたミッションを掲げるのだ。ミッションを掲げることで、ただ仕事を割り振られているだけで目標達成のプロセスとして何をすればいいか分からないというメンバーを無くすことができる。一つの軸を持つことで、各メンバーが自走できる環境が作り上げられる。そのような環境を構築できれば組織として高い成果を上げられると考える。

強みを見極める

次にリーダーがやるべきことは、強みを見極めることである。
組織の内部を問わず上の立場の相手の弱みを補って動くという発想はリーダーシップに欠かせない誰だって万能じゃない。誰にでも強みや弱みがある。立場がどうあれそうだ。それを補うためにチームがあり部下がいる。あなたの弱みが誰かの強みで補う。ポジションに関わらず、強みに集中した方が全体の成果も上がる。

「成果をあげるための秘訣は、集中である。成果を上げる人は最も重要なことから始め、しかも一度に一つのことしかできない」
P.F.ドラッカー「経営者の条件」P.138

リーダーだから自分が全てやらないと。そう意気込む人はリーダーとしての資質が足らない。
そうではないのだ。リーダーは各メンバーの強みを理解しその強みを活かせる仕事を任せたり自分の弱みをメンバーに任せる。お互いの弱みを補える組織こそ、高い成果をあげる組織に必要な要素である。

組織のメンバーに真摯に向き合う

次にリーダーがやるべきことは、組織のメンバーに真摯に向き合うことだ。真摯さとは、英語で「integrity(正直であること、高いモラルを行動原理にもっていること)」と言い換えることができる。仕事に対して”誠実で高潔で、信念を持っていてブレない”姿勢のことだ。
リーダーシップは才能や口先で発揮するものじゃない。リーダーシップが発揮されるのは真摯さによってである。範となるのも真摯さによってである。真摯さは取って代わるわけにはいかない。真摯さはごまかせない。

「いかに知識があり、聡明であって、上手に仕事をこなしても、真摯さに欠ける組織は破壊する。組織にとって最も重要な資源である人を破壊する。組織の精神を損なう。成果を損なう。」

P.F.ドラッカー「マネジメント(中)」P.110

メンバーの犯した罪に対して、情にほだされずしっかりと示しをつけること。そういった姿勢が、リーダーの本気の想いとしてメンバーに伝わり、よりメンバーのコミットメントが強くなり、高い成果を出せる組織になる。

己を知る

次に、リーダーがやるべきことは、己を知ることである。
次に進むべき一歩。それを知るためにはとにかく自分の強みを理解することに尽きる。強みを知るとは、自分自身を知るということ。もっとも成果を上げる者とは、自分自身であろうとする者だとドラッカーは本の中でも伝えている。

無理なことは得意な人に任せればいい。逆に人には無理なことでも、自分には簡単なことがあるはずだから。そうすれば、自分自身のことも1組織としてとらえ、そのリーダーとして自らを導くことができる。組織はトップの器以上に大きくはならない。人間として大きくなることを目指していかなければならない。

「発展させるべきものは、情報ではなく、洞察力、自立、勇気など人に関わるものである。換言するならば、それがリーダーシップである。聡明さや才能によるリーダーシップではなく、持続的なリーダーシップ、献身、決断、目的意識によるリーダーシップである」

P.F.ドラッカー「経営者の条件」P.221

仕事がいつもうまくいくとは限らない。そんな時に「自分だって人の役に立っている」「自分は誰かに必要とされる存在なんだ」と思うことができればそれが心の支えになる。つまり、己を知り強みを知ること、自らをマネジメントする。そうすることで組織に関わっていなくてもリーダーとしての役割を担える。自分自身を一つの組織と考えることで、常にリーダーシップを持って行動できるようになる。

そう、組織でリーダーという肩書きを持っているかなど関係無い。誰もがリーダーになれる。肩書きが無くともリーダーとして周りに影響力を発揮できる力こそ本質的なリーダーシップではないかと言える。