貧乏人が知らないグローバル化の本質的な意味とは


世界でも有数の経済大国である日本ですが、
最近では格差社会や貧困といった言葉を目にすることが増えてきました。グローバル化が進行するほど、一部のお金持ちがより一層豊かになる一方で貧困層はより一層貧しくなると言われていますが、こうした格差は富裕層による搾取が原因なのでしょうか。

年収200万はグローバルには高い方

先日、LINEの田端氏の「年収200万はグローバルには高い方」というツイートが軽く炎上したそうです。

たしかに、年収200万円というのは世界基準で見れば高所得層に入ります。とはいえ、日本の中では相対的に貧困層に入っているわけで、ツイートに過敏に反応した方はグローバル基準で言われたところで自分にはどうしようもないので不満に思われたのかもしれません。

たしかに、最近の日本では貧困層が増え、「格差社会」「貧困問題」といったトピックが取り上げられることが多くなっています。実際に、企業が社員に支払う給料というのは年々削られています。かつて、日本が右肩上がりに経済成長していた時代、企業の年功序列と終身雇用という制度によって、正社員は高収入を得てきました。

しかし、現在では、企業は正社員を大量に雇うほどの余裕はなくなり、正社員が減少した分、派遣社員などの非正規雇用が増えています。このように、企業が弱体化しているのは、グローバル化が進行していることが要因です。多くの日本企業というのは、激しいグローバル競争と長く続く不況によって、年功序列と終身雇用を維持できなくなったのです。

では、格差を拡大させていると言われるグローバル化とはそもそも何なのでしょうか。

グローバル化の意味とは

Global(グローバル)とは、地球規模という意味です。つまり、グローバル化とは、簡単にいうと、今まで国などの地域単位で起こなわれていた活動が地球全体で起こることを指します。具体的にいうと、国と国との境目がなくなって、ヒト、モノ、カネ、情報が国境を越えて自由に行き交うようになります。

グローバルが進めば進むほど地域間の格差はなくなり、どこで生まれたかなどによってあらゆるものごとが制限されたり格差が生まれたりすることがなくなると考えられます。(アメリカなど、地域によって生活コストが全く異なる場合においては結果としての地域間の格差は当然生まれます。)

ヒトのグローバル化

ヒトのグローバル化とは、海外への旅行、留学、移住など国家間の移動が自由になることです。今や、パスポートさえされば、簡単に国境を超えることができます。日本であれば、飛行機を使ってわずか数時間でアジアに観光に行けます。日本から見て地球の裏側にあるブラジルでさえ1日あればたどり着けます。同様に、近年、日本への観光客が増えているのもグローバル化の一例です。年に数千万もの外国人が日本に訪れるなど2、30年前には考えられなかったことです。

各国で外国人の移民が増えているのもグローバル化の象徴ともいえるでしょう。日本では、移民の受け入れはさほど進んではいませんが、外国人労働者は徐々に増えつつあります。都内のコンビニでは、外国人のアルバイトが増えています。通常のレジ作業だけでなく、タバコ、宅急便、チケットなどコンビニの仕事量は年々増えており、日本の若者にとってはわりに合わない仕事になりつつあるのかもしれません。

多国籍企業と言われるグローバル企業では、世界各国で従業員を雇っています。楽天などグローバル展開を目指す企業が社内公用語を英語にしたのは、海外から優秀な人材を獲得するためです。日本では、日本語の壁があるため、まだまだ外国人の労働者が少ないですが、英語圏では労働者は比較的に自由に移動しています。国籍にかかわらず、能力さえあれば雇用する企業が増えており、国にこだわることなく働く人はさらに増えることでしょう。

モノのグローバル化

国家間のモノの移動といえば貿易です。かつて、国から国にモノを移動させるには大きな制限がありました。大きな理由の一つが関税です。多くの国は、自国の製品や産業を守るために他国からの輸入品に関税をかけたり、輸入量に制限をかけていたわけです。

例えば、国産のオレンジが100円で販売されているとします。そこに、アメリカ産の輸入品のオレンジが50円で出回ったとしましょう。消費者はオレンジのおいしさや安全性に問題がなければ、輸入された安いオレンジばかりを買います。そうすると、国内のオレンジ農家は大打撃を受けて、ひいては国内のオレンジ産業の衰退につながりかねません。そこで、日本政府は輸入品のオレンジに50円の関税をかけて価格をあげるわけです。そうすると、それぞれのオレンジの価格は同額の100円になりますから、売れ行きが輸入品のオレンジに偏ることはなくなります。このように、国は輸入品に関税をかけることで自国の産業を守っているわけです。

一方で、競争力のある企業からすれば自国のマーケットだけではなく、海外にも輸出した方がたくさん売れます。国民からしても、企業間で競争が起きて、製品の品質が上がったり、価格が安くなったりした方がメリットが大きいです。このように、自由に貿易ができれば、製品を売る企業は収益を拡大できるし、消費者の満足度も向上するということで、関税を下げて市場をオープンにしようという流れができました。その結果、モノの移動が活発化したわけです。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)も一連のグローバル化の動きの一つと言えるでしょう。

さらに、物流コストの低下もモノの移動が自由になっている大きな要因です。飛行機が発達する以前は物資を船で運んでいたため、何ヶ月もかかっていましたが、現在ではインターネットのECサイトで注文できますし、航空便であれば数日~数週間と言う短期間で商品が到着します。
このように、国による制限がなくなったこと、物流コストが安くなったことでモノの移動が自由になってきているということです。

カネのグローバル化

では、お金の移動はどうでしょうか。
日本で使われていたお金が海外で使われれば、それはお金が日本から海外に移動していることになります。例えば、日本の製造業の生産拠点というは、日本よりも安い人件費や原材料費で製品を生産できる海外にある場合が多いです。しかし、生産拠点を海外に移転する前に、日本で働く工場の人や設備にかけていたお金が海外で使われるようになるわけですから、お金が先進国から発展途上国に移動していると言えます。

また、お金は、消費に使うときだけでなく、株式を購入したり投資をしても国から国へ動きます。例えば、日本の投資家が新興国の企業の株を買って投資することも海外にお金が流れていると言えます。世界の金融市場では、こうした株や為替の売買によって、目まぐるしいスピードでお金が動いています。外国為替市場において、2016年の1日の平均取引高は5兆880億ドルとなっています。お金は、システム上の数字を変えるだけで、どこからどこへでも大量のお金を移動させることができるので、ヒトやモノの移動よりも移動が活発です。

情報のグローバル化

グローバル化が進行することで、より多くの情報がより早く、遠くまで移動できるようになりました。こうした情報の移動が簡単になった背景には、IT技術の発達が大きく影響しています。1990年代半ばまでは今のようにインターネットは普及していませんでした。スマホはもちろん、携帯電話やメールさえもありませんでした。当時は、主な情報伝達手段は固定の電話とファックスというのが長らく続いていたのです。

1995年にマイクロソフトがWindowsを発売した後から、パソコンが一般家庭に普及しインターネットを使うようになりました。そして、誰もが簡単に世界中の情報にアクセスできるようになったのです。さらに、スマートフォンの普及によって、インターネット人口は急速に増えつつあります。2016年時点で世界の人口の半数となる約35億人がインターネットを使っています。

グローバル化によって格差は拡大しているのか

グローバル化により移動が自由になることで、ヒト・モノ・カネ・情報という4つの要素がより効率的に使われるようになり、経済成長を加速させることでしょう。

一方で、先進国では労働者の賃金が低下するなど、グローバル化によるデメリットも大きいと言われています。さらに、世界中の富の半分はトップ1%の超富裕層の人間が持っているなど富の集中が起こり、貧富が拡大しているとも言われています。そこで貧困層の中には、自分が貧しいのはお金持ちが搾取しているからだと主張する人が出てくるわけです。ということは、グローバル化が進行すればするほど、貧富の格差は拡大し、貧困層は富裕層からお金を搾取をされ続けるということでしょうか。

グローバル化とは格差縮小

先ほど、例に挙げた「世界中に旅行にいける」「世界中の商品を購入できる」といったことはグローバル化の本質でありません。グローバル化の現象の一つにしかすぎません。グローバル化の本質というのは、世界中が同じようになっていくことです。つまり、グローバル化は格差を拡大するのでなく、世界が平準化して格差を縮小することなのです。

水が高いところから低いところへ流れるように、経済でも同様のことが起こります。違う場所でで同じ商品が違う価格で売られていたら、安いところで買って高いところで売ることによって、同じものは全て同じ値段になっていくわけです。

もはや日本は買い叩かれている

格差が縮小している例としてわかりやすいのが、中国をはじめとするアジアと日本です。かつて、日本は世界2位の経済大国としてアジア各国を大きくリードしていました。しかし、現在ではどうでしょうか。日本のGDPは、アメリカの4分の1、中国の半分ほどです。中国には多少抜かれてしまったという感覚の人は多いかもしれませんが、実際は倍以上も差が出ているのです。中国のGDPは日本の2倍、人口は10倍なので、一人あたりGDPは2割です。今後、日本人の賃金、一人あたりGDPというのは中国に近づく傾向が進んでいく、つまり低くなっていくわけです。これは、日本の中で比べると格差が拡大しているということになりますが、グローバル基準で言えば、格差が縮小しているのです。

格差が縮小しているということは、日本が相対的に安くなっているともいえます。一時期、爆買いという現象がニュースで話題に上がりました。中国人をはじめとするアジア系の外国人が訪れ、高価な製品を大量に購入していったのです。このように、アジア系の観光客による爆買いが起こったのは、日本の商品やサービスが相対的に安くなっているからです。台湾の鴻海がシャープを買収したことも同様の理由です。日本の商品やサービスは質が高いですから、質が高いのに価格が安くてお買い得ということなのでしょう。

金持ち批判は自分に返ってくる

格差が縮小しているといっても、富裕層と貧困層の差は開いているじゃないかと思うかもしれません。それは、国同士の格差は縮まりますが、国の中での格差が存在するからです。しかし、貧困層が貧しいままなのは、お金持ちに搾取されているからではありません。貧困から抜け出せる水準の給料で企業に雇ってもらえないからです。

こちらの図を見てください。
kakusa
出典 http://blogos.com

グローバル化によって世界が平準化されると、先進国が上、途上国が下という序列がなくなり、各国の差はなくなるわけです。グローバル化する前は、ほかに自分の仕事をできる人というのは、日本人の誰かだったわけですが、グローバル化した後は自分の代わりに仕事をできる人は世界中にいるわけです。企業は、人件費を低いコストに抑えたいと考えますから、自分より優秀で安いコストで仕事をする人に仕事を任せるようになるのです。ということは、仕事がなくなったり、給料が低くなって貧しいのは、お金持ちが搾取しているからではなく、他の人に仕事を取られてしまったからといえます。

お金持ちを批判することは意味がありません。そして、それは日本人という特権階級である自分自身を批判することに他なりません。途上国の人からすると先進国の中で貧しい人でもお金持ちなのです。

世界的に見たときに日本人が富裕層なのは、豊かな暮らしができる日本という環境に生まれたからです。しかし、グローバル化によって日本人であることは特権階級ではなくなってきています。世界中に情報が行き渡るようになると、途上国の人は先進国に自分たちより豊かな暮らしをしている人がたくさんいることに気づきます。そうなると、「なんで同じ仕事をしているのに日本人のあいつらは俺たちより賃金が高いんだ」と思われても仕方がありません。考えるべきことは、お金持ちのことではなく、途上国の人たちがものすごいスピードで日本人の仕事を代替しているということなのです。自分の代わりになる人が出てきたから、仕事がなくなって貧困層になってしまうのです。

過去の歴史を振り返ってみると、いつの時代も革命が起こって世の中は大きく変わってきました。昔は貴族という特権階級の人たちが働かずに豊かな暮らしをしていましたが、庶民の革命によっていなくなりました。経済的に不遇な人たちが抱えている不満は大きく、彼らのパワーはとてつもなく大きいものがあります。グローバル化によって、先進国と途上国という差はなくなって、ますます能力のある人がお金を稼げるという時代になっていくでしょう。

付加価値の高いスキルをつける

では、貧困から抜け出すにはどうすればいいのでしょうか。それは、単純労働をやめて付加価値の高いスキルをつけるほかありません。付加価値の高いスキルとは、人よりも価値を与えられるスキルと言ってもいいかもしれません。例えば、コンビニのアルバイトもしていても、人に与えられる価値というのは限られています。お金というのは与えた価値に見合った対価としてもらえるわけですから、大きな価値を与えられない場所にいてもお金を増やすということは難しいでしょう。

では、価値とは何でしょうか。それはどれくらい求めている人がいるか、与える影響が大きいかと言い換えることもできます。例えば、電話の回線をつなぐ電話交換手という仕事は、困っている人からすれば価値のある仕事ですが、スマホが普及している現代においては困っている人の数が圧倒的に少ないので、市場価値は低いと言えます。このように、時代によって、人から求められる仕事、価値のある仕事というのは変化します。したがって、貧困から抜け出すには、今この時代で求められていることが何かを知り、価値を与えられるスキルを身につけていくことが必要なのではないでしょうか。