トランプが大統領になったたった1つの理由


激闘の大統領選を勝利したのはドナルド・トランプでした。
当初は泡沫候補とすら言われた彼が激戦州をことごとく制覇し圧勝とも言える勝利を成し遂げたのはなぜなのでしょうか。

ドナルド・トランプに当確が

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出典 http://www.google.co.jp/

2016年のアメリカ大統領選はドナルド・トランプに当確ランプが灯り、ヒラリー・クリントンを下しました。上記の図の濃い赤がトランプが選挙人を獲得した州、濃い青がヒラリーが選挙人を獲得した州、薄いものはリードしている状況です。

538の選挙人のうち、過半数の270をとった者が勝利しますが、すでにトランプは289、ヒラリーは218でトランプが過半数をとっています。大きな要因としては激戦州であるオハイオ州(選挙人は18)、ノースカロライナ州(選挙人は15)、フロリダ州(選挙人は29)を全てトランプが獲ったことが挙げられるでしょう。

トランプが勝った理由

トランプがヒラリーに勝った理由はたった1つ、彼が”アメリカ国民の本音を代弁したから”だと断言できます。
彼の今までの暴言というのも計算なのではと思えるくらいにトランプ支持者にとっては共感できるものばかりです。『メキシコとの国境に壁を作り、メキシコに費用を負担させる』というのも杜撰に管理された国境から不法移民が流入してきてそうした地域の治安を悪化させているのは事実を見るにそういった考えを持っている人は少なくありません。

そうした地元民にとっては、不法移民が自分たちの地域を悪くしているというのを実感として感じています。だからこそ、国境に壁を作ってやる!でも悪いのはメキシコだ!メキシコに金は払わせる!という風に共感するわけです。政治の場ではエリートがロジカルに語っているのが当たり前の中で自分の言葉を思いっきり言えることで代弁者として機能しました。

トランプ支持者は白人貧困層と推測できる

メディアでは、トランプ支持者の方が年収が高い傾向があることを理由にトランプ支持者はお金持ちの富裕層であるとの推測をしていますがこれは明らかに間違っており、統計を読めていない証拠です。
トランプ支持者は高齢層になればなるほど多く、18~44歳までの層ではヒラリー45%、トランプ33%です。つまり、年齢層が高いから傾向として高所得になるわけであって、この統計から我々がイメージするお金持ちの図式とは外れています。高卒者がヒラリー35%トランプ52%、大学中退者がヒラリー38%トランプ47%、大卒以上がヒラリー50%トランプ36%ということからトランプ支持者の方が学歴は低いことが分かります。

つまり、イメージとしては田舎の高卒ないしは中卒の高齢な男性がトランプ支持者の群像にあたるでしょう。年齢を固定してヒラリー支持者とトランプ支持者を比較した場合学歴の高いヒラリー支持者の方が年収は高くなります。これは間違いなく言えるでしょう。

なぜメディアは大統領選を読み間違えたのか

ではなぜ、メディアは全てヒラリーが勝つと読み間違えたのでしょうか。それは、”隠れトランプ”のことを考慮できていなかったからです。メディアでは全て当然のようにトランプのことを暴君として報道しました。アメリカ全土ではトランプに投票すると言っているものはトランプの実現性のない公約に飛びつくくらい貧乏で学のない人という見方をされます。

それゆえに、トランプ支持者であってもトランプに投票すると語ることは許せないような風潮になっていました。そうなったら当然世論調査でもトランプの支持率は低めに出るのは当然です。メディアがそれを考慮したうえで大統領選の行方を読んでいたかは定かではありませんが、おそらく自分たちの見ている情報(世論調査など)を過大評価していたのでしょう。
メディアの前では語らないような人々がトランプに希望を見出していたのです。

隠れトランプの力

本誌でも紹介しましたが、『ブラッドリー効果』と呼ばれる現象があり、世論調査と選挙の結果が乖離するということは今までに存在したわけです。1982年のカリフォルニア州知事選のトム・ブラッドリーの例と今回を比較することは難しいですが、結果だけを見るに『ブラッドリー効果』のケースと同じくらい世論調査と選挙の結果は違っていました。

また、メディアには明らかに願望が含まれていました。選挙の行方を客観的な視野で見た上でどちらが勝つかを予想するというよりも、『トランプになってはいけない、ヒラリーが勝たなきゃだめだ』という願望に基づいて認知バイアス(自分の意見や考えを補強するような事実ばかりを偏って認識すること)が働いたのではないでしょうか。
メディアというのは当然、高学歴でヒラリー支持層ですから、彼らはヒラリーに勝ってほしかったはずです。その願望が予想に乗ってしまったと思える部分はあります。

トランプが圧倒的に優れていた演説

トランプの勝因として挙げられるのは演説の力でしょう。対して、ヒラリーは非常に演説が下手でした。集会には空席が目立つくらいでしたし、大衆を盛り上げるようなパフォーマンスに乏しかったのは事実でしょう。レディガガなどの著名人を呼んだりして集客力を高めていましたが、それは裏を変えせば自身のタレント性のなさを物語っています。

『メキシコとの国境に壁を作る』『そうだ!メキシコ持ちで!』というような掛け合いを大衆としていたりと、(その内容が適切かはともかく)トランプの演説の方が楽しいものであったことは間違いないでしょう。
また、彼は本誌で述べたように、一切難しい言葉を使いません。それが多くの人々にとってもついていけるような参加できるようなものであることが分かります。

優れた演説の仕方とは

昔、ヒトラーという政治家がいました。ユダヤ人の虐殺といい、歴史上最大の悪人とされていますが、それはともかくとして彼の演説は歴史上最も優れていたと言われています。そして、彼の演説にはそうした演説における大事なポイントが散りばめられています。

ジェスチャーを用い、強烈なインパクトを与える

ただ言葉で喋るだけでなく、ジェスチャーを交えることによってより感情豊かに観衆に大して印象深くイメージを与えることができます。また、トランプは非常に見た目にこだわる人間だったと言います。従業員に対してもしっかりとスーツを着こなすことを要求していたようです。
彼自身も常に身なりをきちんとして髪のセットには時間をかけています。きっと、ビジネスマンとしての本能が見た目の与える重要性を知っていたのでしょう。

抑揚をつけて大事なところほど大きく言う

トランプはいつでもバカでかい声で過激な発言をしているわけではなく、演説にも抑揚があります。この点においては長年政治の世界で生きるヒラリーもまた抑えているはずですが、発言が過激である分トランプはより際立ったインパクトを残す結果となったのではないでしょうか。

誰でも分かるような平易な表現を用いる

彼が圧倒的に優れていたのは、誰にでも分かり、誰の心にも響くような言葉を選んでいたからです。おそらくそこを強く意図していたというよりも、ヒラリーに比べて学のないトランプの方が自然とそうなったようにも思えます。
日本でも、田中角栄など叩き上げの政治家は、難しい言葉は語らず誰にでも分かるような表現を用いていました。だからこそ演説が盛り上がるのです。

単純な言葉を繰り返す

ヒトラーは『すべての労働者に職とパンを』という非常にシンプルな言葉を用いました。そして、これを何度も何度も繰り返しました。トランプは、『Make America Great Again』です。再びアメリカを偉大に、この言葉にはトランプ支持者の夢と希望が詰まっています。

今、この状況(トランプ支持者の多くにとっては政治に対する不信感が強い)を打開してもう一度我々を偉大なアメリカ国民にしようということを語っているわけですが、これは暗に今の状況は極めて悪く、それを招いたのはヒラリーなど政治家ただ、だから俺が介入する必要があるというニュアンスを感じさせています。
ヒラリーが、『いやアメリカはずっと偉大だ』と返したのとは対照的です。今の政治に不満がある者にとってはトランプの言葉の方が響くでしょう。

敵を悪に仕立て上げ、味方を正義とする

おそらく、トランプとヒラリーの圧倒的な違いはこの部分です。トランプは、演説の中でkill(殺す)という言葉を用いるなど、アメリカ対外を敵とみなすような発言がありました。ヒラリーはそれに対してbelieve(信じる)やtogether(共に)などの協調的な言葉を用いたわけです。

実は、人間が最も仲良くなり絆を深めることができるのは共通の敵がいたときだと言われています。ヒラリーの演説がいまいち盛り上がりに欠けたのはこの視点が欠けていたからです。それに対して、トランプは中国人によって雇用が奪われているとかメキシコ人のせいで治安が悪化しているとかアメリカ対外に対して敵意を向けました。少なくとも、国民はそういった敵がいた方が盛り上がりやすいのは事実です。しかし、これはいきなり出てきて政治経験のないトランプだからこそできたことかもしれません。

大衆の心を掴むのはトランプが圧倒的に長けていた

この中でトランプを勝利に導いた要因は、下の2つ『単純な言葉を繰り返す』と『敵を悪に仕立て上げ、味方を正義とする』の部分でしょう。ヒラリーのスローガンである”Stronger Together(一緒の方が強い)”はあまり大衆に響きませんでした。それに対して”Make America Great Again”は今の状況に不満を持っているアメリカ国民に対して今の状況を打開できるんだという印象を与えたのは間違いありません。

また、トランプは”America First”を掲げました。ものすごいざっくりと言えば、『(世界の警察として様々な役務を果たしていたアメリカは終わりで)ぶっちゃけもう国外のこととかどうでもいいでしょ。』というようなことを語っています。その上で、白人貧困層に対して、『アメリカが今こんな状況なのは、(君たちが今うまくいかないのは、)他の国とかのせいだ!』という都合のいい敵と理由を与えたことです。正直なところ、アメリカを孤立させても貧困層の生活が向上することはないのですが、人は夢のない正しい現実よりも、夢のあるでっちあげを信じます。
共通の敵がいることによって大衆がまとまり、熱狂するというのはそういうことです。

本当にアメリカ国民はそこまでバカなのか

とはいえ、トランプは実務経験もありませんし言っていることはめちゃくちゃです。それが成立するとはとうてい思えないことばかりで、彼に任せたらとんでもないことになってしまうことが予想されます。
アメリカ国民はそんな絵空事を信じるくらいアホなのか、バカなのかと思う人は多いのではないでしょうか。だからこそアメリカのメディアもヒラリーが勝つと信じて疑わなかったわけです。

しかし、アメリカというのは日本とは少し違います。国土が広く、州ごとに全く違う国のような文化の違いがあるわけです。日本であれば沖縄でも北海道でもだいたい5時間くらいあれば東京に出ることができます。そういう意味で非常にコンパクトでまとまりのある国だと言えるでしょう。
例えば、アメリカ西海岸から東海岸に移動しようと思ったらフライト時間だけで5時間以上かかります。空港まで時間のかかる地域もあるでしょう。そうなると平気で10時間かかるということもあるわけです。

カリフォルニアで働くエリートエンジニアがニューヨークに自家用ジェットでいくのはなんてことありません。彼らにとってそれは日常茶飯事です。しかし、アメリカの田舎で細々と暮らしている比較的貧乏な人々にとってはそもそもアメリカの中心都市にいく機会がないのです。日本における離島のような土地がアメリカにはたくさんあるわけです。

アメリカの政治に対する不信感

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トランプ支持の赤い部分はアメリカ沿岸部ではなく、中心部に集まっていることが分かるでしょうか。いわゆる交通の便もなく田舎の地にトランプ支持者は多いのです。アメリカにおける大きな機能を担っているカリフォルニア(シリコンバレー)、ニューヨーク(金融)、ワシントンDC(政治)といった場所はそれぞれ沿岸部にありますからそうではない田舎の地の人々から支持を得たということが言えます。

そうした人々にとって政治や経済に対する意識は良いものではありません。彼らは、アメリカ国民でありながらアメリカのそれから孤立している見放されていると感じているのです。毎月第一金曜日に発表される雇用統計(非農業部門)の数字ですら彼らは信用していないと言うのです。
日本ではそのようなことはおそらくないでしょう。公的な数字すら疑う人というのは日本ではなかなかお目にかかれません。

アメリカ貧困層の逆襲

日本には東京にも貧乏な人はいます。どんな人でも好きな場所に住むことができるでしょう。しかし、アメリカではそうとは言い切れません。最も地価の高いとされているカリフォルニアのパロアルト(シリコンバレーで働く人々が住む)では、家賃の平均が15万円ほどだと言います。イギリスもそうですが、階級社会の進んだ国ではこうした分断が起こります。貧乏人はそもそも富裕層の中に入ることが許されないのです。

日本では、最も偏差値の高くレベルの高い大学は東京大学で年間の授業料は54万円程度で、奨学金を10万円をもらってバイトで月に5万円稼げば、月に15万円。生活費は月に10万円で授業料も払えなくはないわけです。どんだけ貧乏でも頑張れば東大に通うことができます。
対して、アメリカのハーバード大学の年間の授業料は7万ドルほど。つまり、東大の10倍以上です。これは払える払えないのレベルを超えています。しかも、アメリカの大学の入試では学力以外の部分も見ますからお金持ちで育ちが良くて、ボランティアに参加したり様々な活動をしていればいるほど有利になるわけです。日本より遥かにどうにもならないような状況が貧困層にはあるでしょう。
そして、それがそもそも地理的な条件で分断されています。

その分断された(のけものにされた)層から見れば、もはやトランプにめちゃくちゃにしてもらった方がいいと考えることも不思議ではないでしょう。『どうせ自分たちの生活は良くならないから、それならせめて鼻持ちならないエリートどもに一発食らわせてやれ』というのが本音なのではないでしょうか。自分にとって利益があるかどうか以上に(既存の政治を作った中の一員であり、ウォール街からお金を集めていて、エリート層のまさに権化のような)ヒラリーが気に食わないからトランプに入れてやる!くそくらえ!という構造であったことが分かります。

トランプ大統領による影響は

かなりめちゃくちゃな発言を繰り返してきたトランプですが、私はそこまでの悲劇にはならないし、そもそもトランプはわりと普通に大統領を務めるのではないかと思っています。そして他国への影響は実はあまりありません。トランプの掲げるものはアメリカ孤立の在り方であり、戦争を仕掛けるわけでもどこかの国に対して危害を加えるわけでもありません。アメリカ国民を過保護にしちゃうよ!というレベルの話です。

しかしながら問題はその影響を最も受けるのは日本ということで、米軍がもし撤退した場合丸腰になってしまう可能性があるということでしょう。アメリカは貿易のお得意様ですし、そういう意味でもTPP不参加のマイナスは大きいかもしれません。

トランプは平和外交に

トランプの発言を総合するとアメリカはすげえんだから横綱相撲でいいよという感じです。アメリカはすげえしみんなの産業もすげえからわざわざばんばん貿易する必要もない、軍事的に参入もそんなにしなくていい。外のことなんか知ったこっちゃないだろという考え方が伺えます。

その点においては来年になるまで分からないわけですが、意外と大人しく普通にやるのがトランプなのではと考えています。新しい風がアメリカに吹き込まれるのは間違いないことですし、意外にも楽観的に見ている人は少なくはないでしょう。すでに勝利宣言でも特別侮辱的な発言もありませんし、あらゆる影響を考えて穏便にやっていきたいと思っているのかもしれないですね。