ベーシックインカムを日本に導入すべき9つの理由


今年6月、スイスではベーシックインカム導入についての国民投票が行われるなど、
世界的にベーシックインカムに注目が集まっています。賛否両論様々な意見が存在するベーシックインカムですが、日本でも導入すべきなのでしょうか。

ベーシックインカムとは

ベーシックインカムとは、政府が全ての国民に最低限の生活を保障するだけの現金を給付する政策を指します。もっと簡単に言うと、ベーシックとは「一定の」という意味で、インカムとは「収入」という意味なので、全ての人が一定の収入を得られる仕組みのことを言います。子供、学生、主婦、社会人、高齢者まで全ての人に、一律で毎月数万円~十数万円を支給します。年齢、性別、就労や収入の有無は関係ありません。

ベーシックインカムを給付する代わりとして、生活保護、年金制度、失業保険、子育て支援などの現行の様々な社会保障制度はなくなります。ベーシックインカムは全ての国民が最低限の生活を送ることを保障するための政策なので、最低限の生活を保障するために行われきた個々の社会保障制度はベーシックインカムに集約されるのです。

欧米ではベーシックインカムが始まっている

オランダ、スイス、カナダ、フィンランドなどの欧米各地では導入が検討されるなどベーシックインカムへの関心は高まっています。
オランダ第4の都市ユトレヒトでは今年1月から試験的に導入されています。選ばれた300人の市民のうち、成人には約12万円、妻帯者には約18万円を毎月支給します。

今年2016年6月、スイスでは、ベーシックインカム導入の賛否を決める国民投票が行われましたが、7割以上の国民が反対し圧倒的な票差で否決に至りました。賛成派は、貧困の是正や格差の縮小につながること、行政の無駄を減らせることを主張しました。しかし、否定派は、労働意欲の減少に伴って労働人口が減り、財源確保が厳しくなることや所得の低い国から外国人が移住してくることを理由に反論しました。たしかに想定されている以上の数の人間が働かなくなり、ベーシックインカム目当てに大量の人が移り住むことになれば、税収は減少し財源ではまかないきれなくなるでしょう。
このように、ベーシックインカムは試験的な導入が進みつつも賛否両論があり大規模な導入には至っていないのが現状です。では、なぜこれほどまでにベーシックインカムが注目されているのでしょうか。

ベーシックインカム論が高まる背景

なぜ、ベーシックインカムを導入しようという動きが出てきたのか、それはロボットやAIによって、多くの仕事が代替されてしまうからです。オックスフォード大学の研究では、今後10~20年間でアメリカの今ある仕事のうち47%は、機械によって代替されてしまうという予測が発表されています。既存の雇用や社会保障の仕組みではこうした事態に対応できません。そこで、こうした社会の変化に対応する新しい社会保障制度としてベーシックインカムが登場したわけです。

人類の歴史を振り返ってみると、農業革命や産業革命によって労働時間は短縮され、生活は豊かになりました。AIやロボットによる社会変化もそれと同様のことを我々にもたらすでしょう。テクノロジーが発達すればするほど、機械によって人間の仕事が代替され、職を失う人が増える一方で、生み出される富の総量は増えていくので、ベーシックインカムのように富を再分配する仕組みが導入されるのは時間の問題と言えるでしょう。
現代の日本は、高度経済成長期に作り上げた仕組みが機能しなくなり、年金破綻、少子高齢化、累積債務など様々な課題を抱えています。社会問題先進国と言われる日本だからこそベーシックインカムを実現できれば大きなメリットを享受できるのではないでしょうか。では、ベーシックインカムを導入することで具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。

1.自由な働き方が可能になる

ベーシックインカムによって、生活するために必要な収入が保証されるため、週に数回だけ仕事をするというゆるい働き方や数年間働いた後に仕事を中断して長期間の旅行に行くといった自由な働き方ができるようになります。日本では、一度就職というレールから外れると再就職するのが難しいですが、働き方の選択肢が増えれば、他の人と同じように働かなければならないという「レール」がなくなるでしょう。

自由な働き方を実現している国としてオランダが挙げられます。オランダでは、人口の半数以上がパートタイムで働いているというデータがあります。ワークライフバランスを重視する文化が根付いており、余暇に費やす時間を十分に確保することができるので、家族と過ごす時間が増え、定期的に運動ができる健康的な生活を送ることができます。オランダは幸福な国ランキング上位に入っており、こういった自由な働き方が高い幸福度に寄与していると言えるでしょう。ベーシックインカムによって働き方が変わり精神的に豊かな生活ができるようになれば、日本人の幸福度も上昇することでしょう。

2.ブラック企業が淘汰される

過酷な労働を強いられるにもかかわらずブラック企業に勤め続ける人がいるのは、生活していくための収入を得るためです。ベーシックインカムが実現すれば、最低限の生活が保障されるので、ブラック企業で無理をしてまで働く必要は無くなります。これまで、労働基準法を破って、長時間労働やサービス残業を強制していたブラック企業はその体質を変えなければ、働いてくれる従業員はいなくなるでしょう。

しかし、広告代理店など一流の企業でも自殺者が出るなどしているため、一概に生活のためにブラック企業から逃れられないとも言い切れない部分があり、完全にブラック企業がなくなることはないでしょう。

3.労働意欲が向上する

ベーシックインカムが反対への理由の一つとして、「働かなくてもお金を得られると人間は仕事をしなくなる」という意見があります。たしかに、一定数の働かない人は出てくるでしょう。しかし、ベーシックインカムが実現すれば、人々はただ生活をするためにしていた仕事から解放され、自己実現を達成するための手段として仕事を選ぶことが可能になります。つまり、セーフティネットを得られるからこそ自分の好きなことをできるようになるため、労働意欲が向上するとも考えられるのです。

カナダのマニトバ州ドーフィンでは、1970年代にベーシックインカムの実験が行われました。その実験によればベーシックインカムの支給は労働意欲を落とさないという結果が報告されています。
さらに、現行の生活保護制度は生活保護を受けている人は働くことで損をする仕組みになっています。仕事を頑張って所得を増やしてしまうと給付条件から漏れてしまうため、生活保護を打ち切られてしまうケースがあります。これでは、頑張って収入を増やそうという気持ちは起こりません。ベーシックインカムの場合、自分が働いた分だけ所得が増えるので、労働意欲は減少しないのです。

4.挑戦する人が増える

ベーシックインカムによって生活が保障されているのであれば、挑戦した際の失敗のリスクというのはなくなります。例えば、就職するために諦めていた、芸術やスポーツなどの自分の夢を達成しようとにそちらの道に進むひとが増えるでしょう。

さらに、失敗したら生活ができなくなるという経済的なリスクがなくなるため、自分の好きなことを達成すために起業する人も増えるでしょう。現在の日本においても、岩手県の遠野市では、起業者に月額14万円を支給するプロジェクトを実施しています。このように、経済的な支援は起業を目指す人にとって大きな追い風になるでしょう。

5.貧困対策になる

現行の生活保護制度は支給条件が厳密とはいえなかったり、生活保護に対する世間の目を懸念する人も少なくないなど問題を抱えています。例えば、生活保護の給付を受けるには行政の窓口で審査に通る必要がありますが、役所の担当者の裁量による部分が大きいため、公平に支給されないという問題を抱えています。その結果、生活保護を受けられずに生活保護受給者よりも低い収入で暮らしている人もいます。ベーシックインカムであれば、条件を設けて選別したりせずに全ての国民に給付するので、社会保障制度から漏れるということはなくなります。

また、貧困がなくなれば犯罪が減少します。金銭面で苦労しているが故に強盗や詐欺などの犯罪に繋がるケースは多いので、生活できる収入が得られれば貧困による犯罪は減少するでしょう。

6.必要不可欠な辛い仕事の給料が上がる

ロボットやAIが単純労働を代わりにやってくれるとしても、社会には誰かがやらなければならない辛い仕事は残ります。ベーシックインカムが導入されると、生活のためという理由で辛い仕事を請け負う人はいなくなります。そこで、辛い仕事を発注している企業は必然的に賃金を上げざるをなくなるでしょう。
例えば、とび職人の仕事は他の建設現場の仕事と比較して給料が高めです。それは、とびの仕事は建設現場の中でも高い場所での作業が多く、危険な仕事なので、高い給料を支払わなければ、仕事をしてくれる人がいなくなってしまうからです。

他の仕事に就くことができずやむを得ずそうした仕事に就いていた人にとってもその必要はなくなるでしょう。仕事が大変でもお金が欲しい人はそうした仕事に就くことになります。

7.地方が活性化する

職を求めて、仕事が多い都会に住む必要がなくなります。家族や親類が暮らす住みやすい地域に移り住む人が増えるでしょう。地方は都会よりも地価などが安いため、経済的な側面から見ても地方に移住するメリットは大きいでしょう。

ただ、インフラの整備などの面を考慮すると収入が同じでも交通費や車など移動手段の維持費、利便性などを考えた際に地方は劣る面も当然あります。そういった意味で地方への回帰がどれだけあるかは定かではありません。

8.少子高齢化を防ぐ

ベーシックインカムの支給対象は、子供も含めた全国民です。子供を増やすことは、世帯収入の増加につながるので、今まで経済的な理由で子供を作ることを躊躇していた夫婦でも子供を産めるようになります。例えば、国民一人につき毎月8万円を支給すると、子供が二人いる四人家族は毎月32万円受け取ることができます。子供を増やすことで家計が楽になるというケースも増えるでしょう。

結婚や子育てを阻む部分の多くが経済的な部分です。この点については検証はまだですが、ベーシックインカムが実現すれば子供を作ることも活性化される可能性が十分にあるのではないでしょうか。

9.行政コストの削減

生活保護や年金などの社会保障制度をベーシックインカムに集約することで、行政の運用コストを削減することができます。日本の社会保障に関する役所の仕事は、縦割りの構造になっています。年金、生活保護、医療、子育てなど、各々の分野が独立して運用され、膨大なコストがかかっています。これらをベーシックインカムに一元化することができれば、無駄なコストはなくなります。また、全ての国民に無条件で同額支給されるので、手間のかかる手続きや給付金額の計算を行う必要がなくなります。

ただ、そういう意味ではベーシックインカムの導入で政府の機能が一気に小さくなることで雇用が失われる点も考慮しなければいけません。彼らは当然収入が増えることはないでしょう。当事者がどう評価するかは未知数です。

立ち塞がる様々な課題

とはいえ、ベーシックインカムの導入するためには多くの課題を抱えているのも事実です。まず、スイスと同様に、労働意欲の減退や財政負担が大きいといった問題があります。それだけでなく、行政や国の機関からの強い反発が大きな課題になると考えられます。行政を効率化することで、国民にとっては大きなメリットが生じますが、行政で働く人々にとっては仕事がなくなることを意味します。どんな仕事に就いている人であっても、自分の仕事が奪われることに反抗するのは当たり前でしょう。

さらに、こういった新しい社会の仕組みを導入する際の大きな壁として、現状を維持したいという人々の価値観が挙げられます。ベーシックインカムに反対する人の多くは「働いていないのに税金を食いつぶす人が頭にくる」、「なんとなく不安だ」といった感情的な理由によるものです。「財源がないから」「経済規模が縮小する」など、マクロ的な目線で反対する人はほんの僅かでしょう。「働かざるもの食うべからず」が古い価値観になり
、「働かなくても食っていい」という新しい価値観が浸透して初めてベーシックインカムの導入が決まるのではないでしょうか。
ベーシックインカムによる試算が論理的に正しくても、感情的に納得できなければ、反対派の人々が意見を変えるということは難しいでしょう。