ソフトバンクの孫正義社長は大学時代、1年間で特許に出願できるようなアイディアを250個ほど生み出したといいます。
彼はどのようにして短期間に膨大なアイデアを生み出したのでしょうか。
1日に15分だけアイディアを発明する時間に使う
孫正義氏の働く上での極意の1つに「脳がちぎれるほど考えよ」というものがあります。
この言葉が生まれた原点は彼の大学時代まで遡ります。16歳でアメリカに渡った孫氏は猛勉強の末に3週間で高校卒業の認定試験に合格し、ホーリーネームズ大学に入学後、カルフォルニア大学に編入します。家族に多額の留学費用を出してもらっていた孫氏は苦しい家計をなんとか楽にしたいと考えました。
しかし、孫氏は他の学生のようにアルバイトをしてお金を稼いでいる時間などありませんでした。大学を最短で卒業するためには、1日18時間の勉強時間を削るわけにはいかなかったのです。
そこで、孫氏は「発明をしよう」と思い立ちます。新しい発明をしてその特許を会社に売れば、たくさん儲かると考えたのです。
彼は忙しい勉強の合間を縫って1日に15分間だけ発明する時間にあてることにしました。
3つのアイディア発想法
孫氏は”必ず1日1個アイデアを発明する”と自分にノルマを課し、思いついたアイデアをノートに書き込んでいきました。最初の1、2ヶ月はこのノルマを難なくこなすことができました。しかし、そのうち、15分考えてもアイディアが出てこないようになりました。
そこで彼は発想を変えて、”1日1個、コンスタントに発明できる方法”を発明したのです。それは、15分を5分ずつに分けて、「問題解決法」、「水平思考法」、「組み合わせ法」という3つの異なる方法でアイディアを発明するというものでした。
問題解決法
問題解決法とは、日常生活の中で問題が生じた時にそれを解決できるアイデアを考える方法です。不便に感じたことや困っていることをノートに書き留めていきます。毎日、書き留めたアイディアを眺めているうちに、ふと問題点とその解決策が結びつくことがあります。
例えば、断面が丸い鉛筆を机に置いたら、コロコロと転がってしまったとします。すると、”鉛筆が転がる”という問題点が見つかり、断面を四角形や六角形にするという解決策を導き出せるのです。
水平思考法
水平思考法とは、1つ1つを深堀りする垂直思考法と違って、様々な角度や視点から物事を見ることで既存概念にとらわれない発想をする方法です。例えば、四角い商品を丸くしたり、白いものを赤くしたり、小さなものを大きくしたりすることです。
もともとあった商品やサービスの特徴を全く別のそれに変えることで新たなものに生まれ変わる可能性があります。
組み合わせ法
組み合わせ法は、既存のものを組み合わせる方法です。単語カードに適当に思いついた名詞をたくさん書いていきます。そして、ランダムに2、3枚カードをめくって、単語を組み合わせて事業アイディアを生み出すのです。例えば、ラジオとテープレコーダーを組み合わせれば、ラジカセになります。このやり方は一見、関連性のない単語を組み合わせることで常識で考えているだけでは思いつかないアイディアを作ることができます。例えば、「りんご」「スピーチシンセサイザー」「時計」というカードを引いたとします。すると、りんごの形をしたスピーチシンセサイザーがコケコッコーと鳴って、”のどかな田舎の朝を演出する音声付き目覚まし時計”ができます。
さらに、孫氏はこの組み合わせ法に加えて、コンピュータを使ってより効率的な発明方法を生み出しました。まず、それぞれの単語を部品と考え、部品1個あたりのコスト、部品の新しさの指数、部品に対する自身の知識量の指数など合計40個ほどの採点要素を取り入れたプログラムを作りました。さらに、出てきたアイディアについてコンピュータで採点要素を掛け合わせて、点数が高い順に並びかえます。1日5分という短い時間しかない中で、点数が高いアイディアから見ていくことで効率的にアイデアを生み出すことができました。
そして、孫氏はこういったアイディア出しを毎日繰り返して1年間で特許に出願できるようなアイディアを250個ほど作りました。最終的に選んだアイディアは組み合わせ法から生まれた「音声付き電子翻訳機」でした。キーボードに日本語を入力すると、外国語に翻訳され、音声になって出力されるというものです。「関数電卓」「辞書」「スピーチシンセサイザー」という3つの単語を組み合わせて考えた時、このアイデアを思いついたそうです。
その後、彼は優秀な教授や科学者の協力を得て、音声付き電子翻訳機の試作品を作ります。この試作品をシャープに売り込むことに成功し、1億円を手に入れることができたのです。
アイディアの量は質に転化する
アイディアというのは、知識が全くない状態から生まれるわけではありません。既存のものを組み合わせることで、新しいアイディアが生まれるのです。とはいえ、今回ご紹介したアイディア発想法を活用しても、画期的なアイディアをすぐに思いつくわけではないかもしれません。しかし、毎日この作業を繰り返していけば、ノートに大量のアイデアが蓄積されるので、その中から絞り込んでいけば質の高いアイデアを抽出することができます。
孫氏の1年で250個以上のアイディアを作ったというエピソードからもわかるように、良いアイディアに巡り会うためには、アイディアを生み出すプロセスを何度も訓練し、量を質に転化させることが大切なのです。