ロングテールという言葉が時代を席巻してからだいぶ経ったように思える。
ニッチな商品にどんどんと注目が集まるロングテール戦略を幻想とするブロックバスター戦略とは。
常識を変えたロングテール戦略
ロングテールという言葉を知らない人はいないだろう。インターネットに商圏が伸びる中でその時代を作ったのはロングテールの存在にあったように思える。米大手インターネットショッピングサイトのアマゾンがまだ書籍を中心に販売していた頃、今まで書店には置くことのできないようなあまり人気のない商品が売り上げの多くを占めていることに気付いた。いわゆるロングテールの部分が大きな売り上げを生むことが発見されたのはそのときだ。
インターネットという存在がなければこのロングテールはなし得ない。そのロングテールに価値があったとしても、それを販売するだけのスペースが足りないからだ。インターネット販売が広がったことで大きく時代は変わり、人気商品とは言えないが確実に需要の存在するロングテールは一躍脚光を浴びることとなった。
ロングテールは太くなるのか
そんな中、多くのインターネット関係者はある仮説を打ち立てていた。インターネットで物が買えるようになれば消費者にとって選択肢が広がればもっと消費者はニッチな商品に注目するようになり、よりそうした部分の売り上げが伸びるのではないかという仮説である。そうなるとロングテールが伸びる(商品数が増える)だけでなく、より太くなる(ニッチな商品を買うようになる)のではないか。
ところが、市場は逆のことを示している。ロングテールの分布は意外にもインターネットの普及にも関わらず太くなっていないというのである。音楽業界を例にとって、100万ダウンロード未満だった曲の割合は2007年の91%から2009年には93%と増えている。ダウンロードされない曲が増えている結果なのである。もちろん全体の曲数が増えているという要素があるので一概にロングテールが細くなっているとはいえないかもしれない。とはいえ、関係者が期待したような状況が起こっていないのは事実である。
ブロックバスター戦略とは
ロングテール戦略の逆をいくのがブロックバスター戦略である。大ヒット作品を生み出し、その1つが売り上げのほとんどを支えるという一極集中の戦略である。ロングテール戦略の対極であるこの戦略はインターネットの時代の到来とともに淘汰されると見られていたが今この状況を見る限りむしろロングテール戦略を上回る勢いである。
例えば先ほどの音楽業界を考えてみよう。今の時代はストリーミングサービスの最盛期である。amazonも参戦したように、Apple、Google、YouTube、Spotify、LINE、AWA、というように様々なサービスがしのぎを削ってるが、ユーザーを集める上で効果的なのはロングテールの部分よりもヘッド、つまり人気アーティストの楽曲を揃えることができるかにかかっている。
ロングテール戦略とブロックバスター戦略の共存
時代の流れは完全にロングテールにきているように思われていた。ところがそうはいっていない。ブロックバスター戦略による人気コンテンツの売り上げというものはものはそう簡単に廃れない。例えば音楽ストリーミングサービスでは人気コンテンツを揃えなければロングテールが日の目を見る機会もない。
みんなに人気の作品と言うのが口コミで共有されて爆発的な人気を持ち続ける以上、ブロックバスター戦略が有効性を持ち続けるのは自然な話なのかもしれない。もしかするとヘッドの部分は人間のコミュニケーションの部分に支えられていて、その様式が変わらない限りは常にブロックバスター戦略は有効であるようにも思える。
今後も当然のようにブロックバスター戦略で作品を作り続ける事業者はあり続けるだろうし、その一方でロングテールが報いることも増えるだろう。インターネットの時代でできることは増えていっているが、不思議なほどに変わらない部分もあり続ける。この2つの戦略をどちらも活用できる事業者が勝つ時代になったように思える。