“意識高い系”が生まれてしまう心理学的なその理由


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“意識高い系”という言葉は今では市民権を得ました。
近年急速にできた言葉であることは間違いないでしょう。とはいえ、どうして人は意識が高くなるのでしょうか。

時代と共に”意識高い系”は生まれた

おそらく意識が高いという言葉自体は今までもあったでしょう。とはいえ、それは様々な物事へのアンテナが張っている(世の中の時事に詳しい)とか用意周到である(将来のことへの準備をしている)といった意味であり、真面目とかと同義であったように思えます。少なくともうすら笑われるような状況とは異なるように思えるでしょう。

私はそんな”意識高い系”というのはSNSと共に生まれたのではないかと思っています。SNSによって公に発信を行う人間が増えたことによりそれが活躍の場を広めた(”意識高い系”活動をする土俵が増えた)ことと無関係であるはずがありません。それまでは”意識高い系”というよりはうすら寒い自信家ではなかったのではないでしょうか。しかもその数は少なかったはずです。

SNSというのはそもそも自分のことを発信するために行うわけですから、自分の見せたい姿を出す、アピールするというのはなんら自然なことですし、Instagramなんかは特に女性のリア充アピールの場になっています。そうしたリア充アピールなどの一環として登場したのが”意識高い系”ではないでしょうか。

ライフネット生命に現れた”意識高い系”

大学生が成長する場はないのが基本

この記事で紹介させて頂きましたが、ライフネット生命の岩瀬社長のもとを訪れた学生とその顛末というのは非常に”意識高い系”について考えさせる内容であるように感じられます。簡単に内容を説明するとライフネット生命の岩瀬社長へインターンをさせてくれと頼み込んだ学生がいて、そのあまりの熱意に岩瀬社長は名刺の整理の仕事を与えましたが彼は2週間で辞め、『自分はマーケティングの仕事をしたかった…』と残して去ったという話です。

これについて思うことは死ぬほどあるのですが、私の方からの意見としては岩瀬社長はひどい扱いを学生に対してしたわけでもありませんし、急におしかけて一方的に頼み込んだインターンの願いを叶えてあげたことについてはかなり学生に好意的な対応をしたのではないでしょうか。そもそも、学生の言うマーケティングという業務は基本的に指揮をとるようなポジションですから現場を経験した人間のやる仕事です。いきなり『マネジメントがしたい』と言っているような話で、基本的に新卒の社員にも与えられることは無いでしょう。

そうした社会の現実と学生の理想とが離れている以上ずっと平行線であることについては仕方のないことなのかなと思います。もし仮に彼にマーケティングの仕事を与えるとしてもそれは同業他社の研究だったり市場の調査になります。『じゃあこういう商品にしよう』なんて決めるのはプロジェクトマネージャークラスのする仕事でしょう。まあそこらへんの仕事は基本的に椅子が埋まっています、やりたいのならば自分で会社を作ればいいのではないでしょうか。

“意識高い系”とはなんなのか

とはいえ、私のすることは”意識高い系”をコテンパンにやりこめることではありません。”意識高い系”とは何なのであろうかということを考えることです。思えば我々のいる起業というジャンルの世界でもそういった方々は大いに目にします。私はよく学生団体やら学校に呼ばれてセミナーで喋りにいくのですが、そこには”意識高い系”がうじゃうじゃしています。そこで思ったのは『どうしたらこのような発想に至るのだろうか』ということでした。私はいわゆる輝かしい起業家のイメージとは違い、お金が大好きですし金にならない仕事も事業もしません。今までやってきた事業も全て計算づくで成功へ導きました。素晴らしい仕事をしていれば利益は勝手についてくるなんてクソくらえです、利益が欲しいから仕事の質を高めるだけです。
そんなキラキラした”意識高い系”に不思議な感情と、なぜこうも楽しそうに夢を語るのに何も努力をしていないのだろうかという疑問が湧いてきました。

前置きが長くなってしまいましたが、
“意識高い系”とは一言で言い表すならば『承認欲求と現実とのギャップ』です。
これだけだとよく分からないので、例を出すことにしましょう。例えばスーパーモデルに憧れた女の子がいたとします。『こんな綺麗な女性になりたい』そう思った彼女はそのモデルと全く同じ服を着て『見て見て!モデルの~と同じ服なの!』と周りに自慢して回りました。ところが彼女はスタイルも顔も悪くスーパーモデルとは似ても似つきません。おまけに自分の見た目をよくするためにダイエットしたり美容に気を遣ったりしないのに服だけ似せるのだから非常に滑稽な姿になってしまいました。そう、意識高い系とは『服だけスーパーモデルの真似をするうわべ美人に見せたブス』なのです。簡単に手に入る服装という部分のみを寄せるから”意識高い系”なのです。

これが普段からスタイルをよくする努力や化粧で綺麗な顔をする努力など、全てにおいてスーパーモデルに近付けるような努力をしていればきっと”意識高い系”にはならないでしょう。学生の話に戻れば、実際に社会の中で淡々と結果を出し続けていればそれは”意識高い系”ではないのです。『ねえねえ!俺ってこうなんだよ!』と実際の本人の現状姿勢との差があるからそういった言葉につながるのです。

だから”意識高い系”は嫌われる

例えば、もっと例を挙げて考えてみると、意識の高い学生団体の学生は別に学生のお遊びの域を出ないのにまるで社会人の仲間入りかのようにふるまうから”意識高い系”になるのです。これが実際に利益を上げ、立派に活動しているのならば社会人のようにふるまっても文句は言われないどころかそれは妥当です。しょせんはお金を稼がなくてもなんとかなるレベルでの活動は決して社会人と同レベルではありません。

上場ゴールで世を騒がせたgumiの國光社長は自社について『8兆円企業にする。ディズニーのような会社になる。』といった発言をして失笑を浴びたことがありました。それは決してその発言自体についてそういう反応があったのではなく、むしろその発言については当時は國光社長に大いなる期待が寄せられました。それが”意識高い系”のような扱いをされたのは、上場ゴールの件があってからです。業績が全く上向かないどころか意図的に上場の際に高い値がつくような会計上の処理と業績予想を行っていたからです。言っていることとやっていることがちげえじゃねえかとなってそんな見られ方になってしまったのです。

このように1代で東証一部上場企業を創り上げた人物でもこうして”意識高い系”に分類されることはあります。要は、発言と行動との差によってこうした嫌悪感と『こいつだましているな…』とでも言うような批判が起こるのです。
例えば、イーロン・マスクという稀代の起業家は『人類を火星に移住させる』という発言をしながら世界中で称賛を浴びています。それは本気でその目的に向かって取り組み続けるからなのです。だからこそそれを見た人々は彼のあまりの努力に舌を巻きます。ビッグマウスと”意識高い系”の違いはここにあるのではないでしょうか。

“意識高い系”の動力源は承認欲求

なぜ人は”意識高い系”になるのでしょうか。それは非常に単純な話であり、『人に認めてもらいたい』からです。人はそのためにこうした発言を繰り返します。承認欲求というのは自己実現よりも先にくる欲求なので、それが満たされていないとそのことで一杯になります。つまり、『自分は人に認められている』という実感がある人間は”意識高い系”になることはありません。承認欲求が満たされていない、つまりは『自己評価の低い』人間がそれを補うために『見て見て!僕ってこんなにすごいんだよ!認めて!』とばかりに発言を繰り返すことが”意識高い系”の姿です。

ではどうやって人はそうした認められてもらうための発言を行うのでしょうか。それは、社会的に評価の高い人間もしくは職業、ステータスに”疑似変化“することによって行われます。
気付きませんでしたでしょうか?意識高い系というのは往々にして誰かしら偉人や起業家、リーダーを意識したような発言が多いことを。これは自己評価の低さを補うために、『誰々みたいになりたい!』と憧れを抱くことから起こります。”意識高い系”を表す特徴に『何をするかではなく、どんな状態になるかに憧れる』というものがあります。そして自己及びその環境を以上に持ち上げるような発言をして自己評価を必死に上げようとします。先程のライフネット生命の学生の場合については、どんな仕事をしてどんなものを生み出すのかではなく、こんな風になりたいということについてばかり目がいっていたので何かおかしなことになってしまったのです。

とはいえ、自己実現の欲求よりも人間は自己の承認欲求が先にきますから、自己評価が低い限りは『何がやりたい』とかよりも『こんな風になりたい』ということで頭が一杯になってしまいます。”意識高い系”がちゃんと活動を行うのには周囲が彼自身をしっかりと認めてあげないといけないのです。そのくせに本人は着飾ることに頭が一杯ですから平行線なのも頷けることでしょう。

虚言・誇張は最大の不安の表れ

自己愛性パーソナリティ障害という一種の障害(今では、偏見などを考慮して障害というよりは特性や行動の様式と言われています。)があります。これは、”ありのままの自分を愛することができず、自分は(本人の中にある)理想の姿であると思い込む“さまについて用いられる言葉です。より一般的な言葉を使うならば、ナルシズム言えば分かりやすいでしょう。

一般的に、自分に対して絶対的な自信があり、自己を愛している人間が自慢をしたり、自己を誇張したりすることはありません。自慢をしなくても勝手に周りの人が持ち上げてくれるし、自分のありのままをさらけ出してもみなが受け入れてくれるという圧倒的な自信があるからそうなるのです。
いわゆるナルシズムというのは、自分がこのままじゃ受け入れてもらえない、でも多くの人にチヤホヤして欲しい認めて欲しいというギャップを埋めるために生まれるものです。自己愛性パーソナリティ障害というのは、親の共感的な愛情を受けて育たなかった(認めてもらえなかった)、過度の期待を求められた(このままじゃ足りないとされた)というような経験から生まれることが多いです。

自己愛性パーソナリティ障害の特徴

さらに、自己愛性パーソナリティ障害の特徴および症状として以下のようなものが挙げられます。

  • 権力、成功、自己の魅力について空想を巡らす
  • 業績や才能を誇張する
  • 劣っていると感じた人々に高慢な態度をとる
  • 嫉妬されていると思い込む
  • 非現実的な目標を定める

これらはあくまで一部ですが、”意識高い系”に当てはまると思えるようなものです。意識高い系は、

  • 成功する想像をその方法よりずっと多く考えている
  • 能力や行ったことを大げさに語る
  • 劣っていると感じた人々に高慢な態度をとる
  • 批判を嫉妬と捉える
  • とりあえずキリのいいデカすぎな目標をSNSに上げる

というようなことが言えるでしょう。

“意識高い系”は小さな自己愛性パーソナリティ障害

見事に特徴や症状に当てはまる”意識高い系”というのは自己愛性パーソナリティ障害と同列の性質を持っているということが分かります。2009年にアメリカの心理学者により行われた調査によると、人口の16人に1人が自己愛性パーソナリティ障害を経験していると結論付けられていることからも意識高い系の数と同じようなものではないかと考えを巡らすことができます。

このように考えることで、”意識高い系”は自分を認めてもらいたくてしょうがなくて大きく見せようとしている人だということが分かります。承認欲求というのは自己実現よりも低次の欲求であり、ある程度でお腹いっぱいになりますから、承認欲求が満たされている人、満たされてはいないけど自分を大きく見せてまですることじゃないなと思う人は”意識高い系”になることはありません。

美人ほど謙虚みたいなのは根拠があって、美人は息をしていればチヤホヤされるし良くしてくれるから、それならまあ適当に『そんなことないですよ~』って言っておいたほうが得だなとか冷静に計算しているだけです。謙虚じゃない人っていうのは承認欲求と現実のはざまでもがいています。
とはいえ、承認欲求は誰にでもあるので何とも言えないところです。

“意識高い系”には触れないのが1番

全くの偏見になってしまいますが、私自身は”意識高い系”と仕事をしたいとは思いません。なぜなら自分を高く見せることが全てでどんなことを成し遂げるかに目がいっていない上に、努力を継続的にできない傾向が強いからです。
目的志向よりもどうやるかにこだわる(=自分がどんな風にあるかにこだわる)ことはご覧の通り推測がつくでしょうが、なぜ”意識高い系”は努力を継続できないのでしょうか。

それは、『承認欲求』というモチベーションの源にあります。我々、経営者は基本的に『こんなことがしたい!』という結果に対して重きをおきます。まさに結果にコミットする状態ですね。ところが、”意識高い系”は見た目にコミットしている状態です。それ自体はまあ置いておくとして、見た目のために自分の見栄のためにいい成績を挙げてくれるのならかまいません。
ですが、承認欲求を理由とした行動というのは承認欲求が満たされたところでやる理由がなくなります。なぜならそれは本当にやりたいことではなくて、『自分の低い評価を上げるのに必死でやったこと』だからです。仮にうまく結果を出したとしてそのときに承認欲求が満たされていればもうモチベーションがなくなるからです。これは、自己実現欲求を目的とした人間がひたすら懲りずにやり続けるのとは対照的です。

それに、私の経験で言うと”意識高い系”というのは普通の仕事をするとすぐに挫けます。それは、結果を出すために行う仕事というものが見た目をよくするためにする意識高い活動とは相いれないからです。なんとなくカッコイイようなことができればそれで十分なのだから利益を出す必要などありません。それっぽいことをするのが1番な”意識高い系”にとって仕事とは無駄なことなのでしょう。
基本的に”意識高い系”というのは低い自己評価に苦しんでいます。しかし、人に認めれたいという欲求の狭間でそうなるのですからなかなかそう簡単に直せることではありません。基本的にはうまく交わることはないのではないでしょうか。