なぜハロウィンはここまで巨大化したのか


日本では恒例のイベントとなりつつあるハロウィン。
その起源はケルト人の収穫祭にあり、もともと欧米の文化であるが、日本ではなぜここまでの巨大イベントとなったのだろうか。

欧米ではお盆のような扱いであったハロウィン

毎年10月31日秋の収穫を祝い、悪魔を追い出すという宗教的な意味合いを持ったイベントであり、仮装した子どもが『トリック・オア・トリート』と言いながら近所の家を回り、おかしをねだる。欧米ではハロウィンとはそんなものであった。各家に装飾を施すなどはあるものの悪魔やカボチャをモチーフにしたものに留まり、そう派手に騒ぐイメージはない。

そんなハロウィンは世界各国にまで広まっているわけではない。もともとケルト人が由来であることからアイルランドを中心とした英語圏(正確にはイギリスが進出したアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど)に広まっているが、カトリック信者の多いラテン系の諸国(イタリア、スペイン、ポルトガル、フランス)には広がっていない。それらの国ではハロウィンに興味を持つ人々はいない。

そして、日本では近年広がりを見せている。主に渋谷のスクランブル交差点を中心として、10月31日に仮装を施した若者たちが集う。何をするでもなく仮装をしてただただ騒ぐのがこの国でのハロウィンの決まりのようになっている。このこと自体もいたって最近のことであり、5年前にはこのような光景は見られなかったのではないだろうか。

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出典 http://www.asahi.com/

日本で流行った発端はディズニーランド

仮装、そしてコスプレ自体は日本に広がったのはここ最近というわけでもない。10年ほど前くらいから仮装を楽しむ文化自体はそれなりに普及していたようにも思える。サブカルチャーの聖地とも言えるコミックマーケット(通称『コミケ』)は1975年から始まっているし、そこでオタクたちやコスプレイヤー(アニメなどに代表されるコスチュームを楽しむ人、主に女性を指す)はコスプレを楽しんでいたし、その文化が一般層で当たり前のものとして定着したとしてもそれを披露する場がなかったということになるのではないだろうか。

このような日本での広がりの要因の1つには、サッカーワールドカップの代表戦を口実に渋谷に集まる若者など、何か騒ぎに集まると言えば渋谷という風に定着したことが挙げられるだろう。代表戦で騒ぐ若者も今までは渋谷にあそこまでの数はいなかったはずだ。そうした傾向が見られるようになったここ5年とハロウィンが盛り上がり始めたここ5年がおおよそ一致するのも原因はあるのではないだろうか。

さらに、ハロウィン自体に注目が集められた要因の最たるものは東京ディズニーランドであろう。『ディズニー・ハロウィーン』なるイベントが東京ディズニーランドでは1997年から開催されている。当初は特に目立つものはなくパレードすらも開催されていなかったが、2007年のホーンテッドマンションのリニューアルに伴ったイベントの巨大化、そして2009年には東京ディズニーシーでもイベントが開催されたあたりから日本中でハロウィンが盛んになったのではないだろうか。

ディズニーランドはまさに夢の国という名の通り、子供だろうが大人だろうが童心に返って1日を楽しむことのできる場所だ。言ってしまえばコスプレのようなちょっと気恥ずかしいような行為も制服ディズニー(大学生以降の男女が高校時代の制服を着てディズニーを回る)やミッキーの耳をつけているのが当たり前のような夢の国では違和感なく楽しめる。そういった意味では若者が仮装するなどの文化というのはディズニーランドから広まるというのはその行為の抵抗感という意味では非常に自然なことなのではないだろうか。

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出典 http://www.tokyodisneyresort.jp/

若者は大人が近寄れない空間が好き

さらには、ここまで渋谷にワールドカップ、ハロウィンで若者が集まる要因としてはこの時代の変化、若者の草食化ということが大いに関係している。
従来、若者は年がら年中はっちゃけている生き物であった。バブル時代にはディスコなる今で言うクラブのような箱に若者は集まり踊り狂ったしその経済規模から見ても数・頻度は今の比ではなかった。全国各地の海水浴場は来場者数の減少を嘆いているし、若者が騒ぐ姿というのは今までよりも減ってきたように思える。

ハロウィンに苦言を呈する中高年は多く見受けられるが、そもそも若者がそうして騒ぐ姿は年々減っているのではないだろうか。草食化も大きな要因であるし、『ゆとり世代』という格好の中高年が若者を叩くためにある言葉があるからこそ若者はそうした人の目を今まで以上に恐れているように思える。
そんな傾向から、若者自体がバカ騒ぎする場自体がかなり減っているように感じられる。だからこそ、その口実を得たハロウィンに多くの人数が集い、今日ばかりは許されるとお祭り騒ぎを楽しむという風に見える。

そんな若者が集い、騒ぐ場所は常に”大人がいない場所”である。SNSしかり若者は大人がこない場所を楽しむ。自分たちの敵にもなりえ、それでも社会的権力において自らの上に立つ大人を若者は嫌う。それの表れがSNSであるし、SNSは大人にまで流行る頃には若者は飽きているというのはそうした理由が外せない。ハロウィンというのは、決して大人が近づけない場だからこそ若者は純粋に仮装やバカ騒ぎを楽しむにふさわしい。そうして文化として定着していったのだ。

ハロウィン文化は派生して経済を動かすのか

今現在、日本でのハロウィンの経済効果は1200億円と言われている。中国人の爆買いは2015年の10月1~7日で1100億円ほどと言われているからそれに匹敵するだけの経済効果がこの短い期間に生まれているということである。

この文化はさらなる広がりを見せて日本経済を押し上げる要因になりえるのだろうか。ハロウィンというメディアに取り上げられ、流行への感度が高い若者の集まる空間は広告代理店など商機を狙っている事業者からすればこの上ないチャンスである。ハロウィン自体が10月31日の渋谷での仮装だけでなくもっと広まればいいし、様々な場で若者がお金を落とすような機会を設ければこの1200億円は2倍、3倍になることだろう。ハロウィンに眉をひそめるだけでなく、もっとビジネスの場が生まれることを期待したい。