起業家.comが振り返る2016年のトレンド


2016年はどんな1年であったのだろうか。
今年のトレンドはどのようなものであったのか、それを本誌で今年2016年1月1日に予想したトレンドとの正否を振り返るとともに考えてみたい。

2016年のトレンドは

今日で2016年も終わりになる。今年1年を振り返れば流行語を獲ったゲス不倫に代表されるスキャンダルや、ブレグジット(イギリスのEU離脱)にトランプ大統領の当選などの予想外の出来事が多かったように思える。その影響を受けて株式市場が荒れるケースも多かった。

一方我々のスタートアップ市場においては、多くのVCや起業家関係者の語るようにトレンドのない年であったように思われる。大本命であったのはVRやAI、そしてIoTなどの近未来のテクノロジーであるがその点においては大きなブレイクスルーはなかった。FinTechもまた期待が寄せられていたが、決済サービスが多くローンチされるなどはあるものの話題はApple Payに攫われただろう。

今年1月1日に本誌で予想した2016年のトレンドを振り返るとともに、今年2016年はどんな年であったのか、どんな変化があったのかを考えてみたい。

起業家.comの予測する2016年のトレンド

マーケティングオートメーション

マーケティングオートメーションというと少なくとも日本では聞き慣れない言葉であるが、シリコンバレーなどでは注目されている概念である。日本で言えば名刺管理ソフトのSanSanは名刺を管理することでマーケティングオートメーションを図るサービスであり、メタップスの提供するECツールは人工知能を用いて顧客の嗜好に合わせて販売を自動最適化するツールになっている。

メタップスの人工知能を用いたもののようにテクノロジーベースのものもあれば、SanSanのように”名刺が大量にありすぎて管理しきれない”という課題を解決するマーケティングベースのものも存在する。同じなのは、顧客とのコミュニケーションを最適化するためのサービスであるということである。

マーケティングオートメーションに関してはひょっとすると大外れであったかもしれない。AIなどの技術によって企業の営業活動がよりスムーズに、スマートに進むかと思われたが、特別な変化はなかった。Slackなどのエンジニア向きの社内ツールについては比較的目にする機会があったかもしれない。

ビズリーチがそういった意味ではHRTech(人材とテクノロジーを掛け合わせた言葉)として印象を残したかもしれない。社内の業務(この場合は採用になるが)をテクノロジーによって進化させる仕組みはまだ少し時間がかかりそうだ。

サーベイロボット

サーベイとはそのまま測量を指す。2015年ではコマツがドローンを作業現場に用いたことで話題になったが、ドローンなどのロボットによって地盤や土地の測量およびデータベース化がいとも簡単にできるようになっている。2016年でそのような測量などに特化したドローンもしくはロボットが出てくるように予想される。

例えば建設現場だけではなく、油田や鉱山などにおいては危険がともなうことも多く、ロボットが欠かせない。また、地雷などの撤去にはロボットの力による探知が必要不可欠だ。ロボットが自律的に動けるようになればさらに利用現場が増えてくる。

名前を多く聞いたのはサーベイロボットよりも自動運転に関するものであった。Ottoなどのロボティクスは大きな期待と共に我々の心を躍らせ、露出もまた多かった。

とはいえ、やはりハードにおいてはイノベーションはそう簡単には起こらない。大本命はGoogleなどのロボットカーではあるが、それが我々の手に移るのは早くても2020年ではないだろうか。2016年のトレンドとするには早すぎた。

グローバルメディア

訪日外国人観光客はいまだにその国のガイドブックを片手に京都や銀座を歩いている。GPSを搭載した地図アプリも日本の住所が読めなくては使えないから地図を片手に街を回っている姿をよく見ることになる。日本人はそんなことせずにスマホで調べれば一瞬なのにおかしな話である。

インバウンド需要は非常に大きいが、訪日外国人観光客に対して日本の情報量は親切ではない。圧倒的に外国人の日本への情報は足りていないから、オリンピックまでには確実にそうした外国人が日本を楽しくスムーズに回れるような情報を充実させるサービスが現れるだろう。そのサービスを普及させるためには今から動き出さないと間に合わない。

グローバルメディアにおいてはある程度予想が当たった。『Japan Info』がフジグループに買収されるなど、インバウンド需要を意識した傾向が見られる。『relux』はすでに宿泊予約サイトとしてインバウンド対策に余念がない。

きたる2020年に向けて2017年はより一層その動きが見られるだろう。今年1年を見る限りでは、インバウンド向けのメディアですでにシェアを大きく獲得するほどに飛び抜けたものは存在しなかった。本腰を入れるのはこれからだろう。

エンターテイメントEC

例えば、トリッピースは誰かの企画した旅にもしくは自分で旅を企画して参加することができる。参加者が決まるとトリッピースを通して旅行代理店が様々な手配をしてくれ、旅が実現するという形だ。このトリッピースのようにただ物やサービスを売るのではなく、そこにユーザーが参加できたり楽しめるようなECや予約サービスをエンターテイメントという枠組みで捉える。

自分でデザインしたTシャツをプリントアウトして購入することができるのもこのようなエンターテイメントECの一種だ。欲しいものにたどり着くことができ、安く早く買えるECサイトから今後は見ているうちに欲しくなるようなECサイトが成長することだろう。その中で”インタラクティブ(相互的)”というのは1つのキーワードになる。

いわゆる相互的なインタラクティブな形での購買が進むと予想をした。これは半分当たっていて半分外れているだろう。まず、インタラクティブという意味では中国などでクーポンの共同購入サイトのような仕組みがある程度見られた。クーポンという言葉で言うと、楽天のRaCouponのような仕組み(クーポンを購入することで安く商品が手に入る)はある程度伸びている。

そして、Instagramでは、インフルエンサー(大きな影響力を持つ有名人や素人)の購入した商品をユーザーがこぞって購入するなど一種の新たなマーケティングが顔を出したように思える。ナイトプールやバブルランなどはそうしたインスタ映えを意識したものと捉えることができる。Instagramの影響力は我々の想像を遥かに超えるものだった。

その他の部分で言えば、今までホットペーパービューティーの独壇場だったサロン予約にminimoが食い込んでいる。(下記のようなCMでおなじみ)
ミクシィの運営するminimoの特徴はよりスマホに適した検索などができるようになった点である。PCの時代に生まれたホットペーパービューティーに対してminimoは圧倒的にアプリのUIを意識している。ECの形はしっかりと変わってくるだろう。

しかし、インタラクティブかと言われるとそうではない。相互的にユーザーの動作を反映したものが出るかと言えばそんなことはない。我々の想像したところまでは進まなかった。インタラクティブといった体験というよりはスマホというデバイスに最適化されたフォーマットが中心になっていくだろう。

CGM型ライブ動画

『LINE LIVE』はLIVE動画を国内に急速に普及させるに違いない。そのユーザーの爆発的な伸びからもLIVEを動画で見るという概念が普及することは間違いないだろう。ともなれば、一般ユーザーもアーティストのようになりきってLIVE動画を提供しようと考えるのは不思議ではない。学園祭やツイキャス・ニコ生などの熱狂を考えればそれは自然なことだ。ただただアーティストのライブを見るだけでなく自分も参加する形というのがこの動画コンテンツ普及の時代にあってもおかしくない。

ところで『LINE LIVE』は一般ユーザーによる投稿を許可していないから、一般ユーザーがそうしたことをできるようなプラットフォームがあればツイキャスで読者モデルが動画を投稿しているように、半有名人の面々のファンと相互にLIVE動画を通して交流する場所となりうる。

たしかに『LINE LIVE』をきっかけにユーザーが動画を投稿する姿は目立った。下記の記事でLINE LIVEについて紹介しているが、その中では一般のユーザーが動画を投稿する形が非常に増えている。

LINE LIVEが1周年で総配信時間は11年超えに

そういう意味ではユーザーが動画を投稿することが非常に馴染みあるものになりつつある。とはいえ、ライブ動画よりもYouTuberのような編集した動画を投稿する形の方がいまだ多い。ライブ感が受け入れられているかはいささか謎である。

動画と言えば、musical.lyが若者世代を中心に2016年非常に流行った。これは、自分の撮った動画(多くはセルフィー、つまり自撮りである)に好きな音楽を組み合わせることのできるサービスであり、アーティストのPVのように歌っているような動画を撮影して音楽を合わせることができる。さらに有名人の動画と自分の動画を合わせると一緒に歌っているように見せることもできる。
また、InstagramではSnapchatのストーリーのような1日で消える動画を投稿する機能も出てきて、一般ユーザーが動画を投稿する形が増えた。

2017年も動画というのは確実に1つのトレンドであるだろう。

起業家.comの選ぶ2016年のトレンド

さてここまでが本誌で1月1日に予想したトレンドを振り返ったわけであるが、今年2016年に実際にトレンドとなったものを考えてみたい。多くの場で今年は、そして来年もトレンドというトレンドがないと言われてはいるが、そんなことはない。

あらゆるサービスや企業が生まれた中で、ひときわ異彩を放った、大きな成長を遂げたジャンルもあったわけである。本誌の選ぶ2016年のトレンドは以下の3つである。それぞれ解説していきたい。

  • スマホ決済
  • 分散型動画メディア
  • Pokemon Go

スマホ決済

今年で多くの決済サービスが生まれたように思われる。StripeにPAY.JP、Coiney、WebPayにAnyPayなどの多くのサービスが存在する。それらは主に店舗でスマホ決済ができるもの、ECサイトに決済を導入するものなどに分類することができ、非常に多くのサービスが近年生まれている。今年トレンドとなったのは決済ではなく、あえてスマホ決済としたい。

そして、財布の電子化そのものを一気に促進させたのは、Apple Payの存在であろう。Apple Payによって多くのiPhoneユーザーがSuicaをスマホに換え、コンビニでの決済にスマホを使うケースが非常に増えた。
下記記事でも考察しているが、意外なことに決済の在り方が変わる、FinTechの普及に必要なのはブランド力であったりユーザーの心を掴んで離さないデザイン性なのかもしれない。

Apple Payがここまで熱狂を呼ぶ理由

分散型動画メディア

今年間違いなく成長したのがSNSでの流入を中心とした動画メディアである。分散型メディアに関しては、自社サイトを持たずにSNSのアカウント上でコンテンツを配信するケースも多い。
特に多くのトラフィックを獲得しているのが料理動画メディアで、本誌でも紹介したがすでに非常に多くのメディアが存在する。他で言えばファッション・美容などのコンテンツ、旅行などの長めのコンテンツが存在する。ただ、分散型のフォーマットに適したジャンルというのはそう存在しないこともあって数少ないコンテンツを争うことになりそうだ。

料理動画メディアはすでに戦国時代に

分散型メディアの中でも多くはすでにアプリ上へ移行しようとしている。Buzfeedなど分散型を貫くものも少なくはないが、少なくとも国産のものに関してはアプリに力を入れるケースが多い。そういった意味で本質的に分散型メディアと呼べるものは少ないかもしれない。動画メディア自体の数はこれからも増えるだろう。

Pokemon Go

Pokemon Goに関してはジャンルではなくサービスであるが、今年1番ヒットしたサービスであることは間違いないだろう。そして、Pokemon Goに関して言えば従来のゲームアプリの在り方を変えたと言っていい。

Pokemon Go Plusに仕掛けられた戦略

本誌で紹介をしたように、Pokemon Goはソーシャルゲームとは異なり、ガチャなどの仕組みを使わない射幸心に依存しない仕組みである。もっと平たく言えば廃課金と呼ばれる一部の高額課金ユーザーを生まない。
そのため、ユーザーに対して優しい仕組みであると言えるだろう。ゲームにリアルの位置情報を組み込んだという点、そして任天堂のIPらしいユーザーに悪い印象を与えないライトな課金の仕組みを創り出した。

しかし、SUPER MARIO RUNは買い切りという仕組みでサービスをスタートさせたが思ったように伸びなかった。ゲームアプリの仕組みはほとんどがガチャ頼みであり、そういった意味では今後もあらゆる可能性を模索していく必要があるだろう。

2016年のトレンドは、

  • スマホ決済
  • 分散型動画メディア
  • Pokemon Go

であった。明日は2017年のトレンド予想についてお届けしたい。