上場がステップアップとは限らない


輝かしい”上場”の2文字。
ただし、この上場が必ずしも栄光へ向けてのものではないことを知るべきである。

上場が招く結末

”最年少上場”
こんな言葉は誰もが目指すゴールである。最年少にして上場を果たす。上場というのは社会的に見ていかにも世間的に認められたレベルの企業になった証であると、そう感じさせるに十分なものである。実際に多くの優良企業が大企業がほぼ例外なく上場を果たしているのも事実ではあるし、それ自体は決して外れているものではないと考えて間違いないように思える。

未上場で大きな企業と言うと、リクルートに郵政グループが上場となった今では(厳密には郵政グループは上場承認の段階)、LINE株式会社やサントリーホールディングス株式会社、株式会社DMM.comなどのごく一部に限られているようにも思える。大きな会社は”ほぼ”例外なく上場をしているという風に捉えてもなんら間違いではない。

そんな上場、ベンチャー企業の華々しい上場が招く結末は決して良いものばかりではない。ブレイブフロンティアなどスマホゲームでおなじみのgumiが上場した際には”上場ゴール”と大きく批判された。gumi自体の業績が大きく悪化したというとそうでもない。上場に際してその株価を吊り上げようとするような動きに対して主に投資家からの批判が集まった結果である。
もしかするとgumiという企業の経営は上場をしなかった方が望ましい方向へといっていたのかもしれない。

http://kigyo-ka.com/00146/

上場すると投資家に振り回される

gumiの例が分かりやすいように、上場によって程度の差はあれど全ての企業が投資家の反応を受けることになる。もちろん、それがなんだという話でもあるしそれをぶった切って経営を続ければそれでいいじゃないかという話でもあるものの、そこまで単純な話ではないというのが世の中の結論である。
会社は株主のものであるし、その株主の声が一定の力を持つのはいたって自然なことである。ただ、株主の全てが会社のことを正当に考えているわけではないのは明らかだろう。株価をいったん吊り上げて手放すのがその人間にとっては最高の選択肢であるケースももちろんありうるし、なにより上場後の株主というのはあまりに我慢強さがない。それは創業当時から会社に関わり続けた株主と比較すると当たり前のことかもしれない。

上場というものにそれだけのリスクがあるのは間違いのない事実である。一方、上場のメリットと言えば、上場ゴールに関する記事で扱ったとおり、上場による資金調達、大規模な借り入れができることなどの資金面のものと、社会的認知度の主に2つの側面から考えられる。
結果として多くの企業は上場というゴールを選んでいることからも上場のメリットはそれだけ大きいことでもあるだろうが、そのデメリットが上回るパターンももちろん無視はできない。

上場を演出するのはVCである

上場において最も得をするのは、ベンチャーキャピタル、そして証券会社である。それぞれの上場に対する役割については、『日本のベンチャーキャピタルは成長するのか』と『野村証券の責任問題で話題のIPOの主幹事の3つの役割とは?』の記事をそれぞれ参考にして頂きたい。

そんなVCは(上場申請以前は企業と関わるのはVCのみであるから)、企業に対して上場をするように煽ることがもちろんあるだろう。当然ながらVCとしてもイグジットしてもらって投資して得た株式を換金しなければVCとしての利益につながらないものだから、必死になって上場の方向へ向かわせる。確認がそれぞれ自分の利益のために動くことは何の悪でもない。

IT企業を市場が評価するのはあまりに難しい

例によってgumiもしかり、グノシーについても上場を果たしたが、その株価はおおむね望みどおりとはいかない。基本的には勢いをつけるためにも低い株価からスタートするはずであるIPOについて公募価格を下回る状態が続くことはきわめて厳しい状況である。

しかしながら、それは各企業が上場のレベルにないとか経営に問題があるということではなく、ボラティリティの高いIT企業をせっかちな一般投資家のために株式公開することにはなかなかムリがあるのではないかという問題だ。営業利益を109倍にしたミクシィしかり、レベルの高いIT企業でも一瞬で衰退したり、復活したりする。IT産業というものはそういうものであり、そもそも安定的な成長を望むこと自体に無理がある。ある程度安定的な状況にある楽天やサイバーエージェントなどの企業とこうしたスマホゲームやアプリを主戦場にする企業は別物として扱わなければならない。

東証側からgumiの件を受けて苦言が呈されていたようではあるが、そもそもIT企業についてもっとそのビジネスモデルとその特徴は知るべきである。その上で上場を承認するかしないかという結論をすべきなのではないだろうか。現在続く上場においてはVCと証券会社は得をし、企業と一般投資家は損をするという決まりきったシナリオになってしまっている。