動画コンテンツが勢いを増しているのは誰もが否定しがたい事実でしょう。
ところが、今まで意外なまでに動画市場は注目を避けてきました。はたして今後の動画市場はどこまで伸びるのか。
『LINE LIVE』のもたらした衝撃
『LINE LIVE』のもたらした衝撃というのは非常に大きいでしょう。アイディア自体は特に特筆するものでもありません。動画という形に様々な媒体がシフトしている中で(FacebookやTwitterがタイムライン上で動画が再生されるようにした)、それ自体がYouTube以外の媒体から発せられることも、LINE動画がひとつのジャンルとしてネット上で確立されることも想像の範疇です。それでも、我々のようなITと呼ばれる世界で生きる人間にとっては『LINE LIVE』
はあまりに驚愕でした。
それは、12月10日発表の『LINE LIVE』が公開初日に500万人もの視聴者数を記録したことです。そして、同時に90万人が視聴を行う。こんなことができるのは日本ではLINEしかいません。この数字こそがLINEのもたらした衝撃です。あまりに完璧すぎる。これだけの数字を出されてしまっては他のメディアは敵いません。
これから注目される3つの大きな市場
私は今後、大きな3つの市場が爆発的に伸びるのではないかと思っています。これ自体については相当な自信がありますし、おそらく外れることはないでしょう、今後の10年のトレンドとなることは間違いありません。これから出てくる急成長のベンチャー企業はこの中のいずれかに分類されることになるのではないかと予想されます。それは常に大きな市場が生まれるタイミングで大きなビジネスもまた産声を上げるからです。
それは、お金の電子化およびストレスフリー化、データベースを用いた情報の個別最適化、動画をはじめとするコンテンツの3つです。これだけだとなんのことかあまり見当がつかないでしょうので、1つ1つ解説していくことにしましょう。
お金の電子化およびストレスフリー化
たとえばFinTechという言葉を思い浮かべると非常に分かりやすいでしょう。特に決済サービスは多くのIT企業がこぞって参戦していることで知られています。
今後どんどんと現金を見る機会は減っていくはずです。マネーフォワードの家計簿アプリで自分のお金の行き先はすぐにわかるようになり、支払いはスマートフォンもしくは手のひらでできるようになるからクレジットカードすらいらない。さらには生命保険などの保険もスマートフォン上から契約や設定が管理できるようになります。保険会社の持つデータベースによって、あなたは最近飲みすぎだから保険料を上げますよ?もっと節制してくださいなんて言われるかもしれません。
このようにお金の支払い受け取りがすべて一元化なおかつ紙幣や硬貨などの物体を見ることはなくなり、お金はただの数字になるでしょう。お金の使い方によってローンが組みやすくなったり、いい家に住みやすくなったりと審査が変わってくる、さらには利率が変わることも考えられるかもしれません。人間がそんなことを気にすることもないくらい機械が非常にスマートにこうしたリスクの計算をしてくれます。
データベースを用いた情報の個別最適化
ビッグデータと言えば分かりやすいでしょうか。非常に膨大なデータを取り入れたがゆえに、今のIT企業はサービスをその人1人1人に対してもっとも適切なように変化させることができるようになりました。それを見事に使用しているのがDeNAの個別最適化です。全員一様からセグメント最適化、そしてその次にくるのが個別最適化です。何もこれはゲームだけではありません。
例えば、Facebookでは各人ごとにどの友達とが仲がいいのかを計算し、タイムラインの並び方を決めています。だからあなたのFacebookのタイムラインは基本的に仲のいい人か気になっている人で溢れているはずです。このようにもう個別最適化を取り入れている企業はごまんと存在します。それだけではありません。例えばamazonで買い物をする際にはあなたが本当に欲しいものがより高い精度で表示されるし、買いたい服も好みに合わせてさらには前に買ったボトムスを用いたコーディネートまで表示してあなたに勧めてくれます。今までは常連客に対してやり手の販売員が丹精をこめて行っていたことをコンピューターが一瞬でしてくれます。
動画をはじめとするコンテンツ
これが今回のキモとなる動画コンテンツです。例えば、LINEで友達とメッセージのやりとりをする、そのメッセージの1つ1つがコンテンツです。LINEの『女子高生にとってのキラーコンテンツは彼氏からの何気ないメッセージ』という言葉はコンテンツというものを非常によく表しています。スマホ片手に、もしくはパソコンを覗きながら見るそれら全てがコンテンツです。古いコンテンツで言えばテレビがありますよね。コンテンツという領域においてSNSやYouTube、ネットサーフィンというコンテンツが若者をテレビから奪い去りました。
そして今までの大きなコンテンツはtwitterにLINE、Instagramなどのテキストもしくはピクチャのコンテンツでしたが、YouTubeなどの動画コンテンツが伸びてきています。それには回線の質の向上などによってスマホで動画が見れるようになったことが要因として挙げられるでしょう。そして、YouTubeとは一味違った動画コンテンツが今後は伸びてきます。それが、『LINE LIVE』などのライブ型の動画コンテンツです。YouTubeなどは多くがいつでも見れるような動画、さらには素人の登校した動画でしたが、今後コンテンツパブリッシャーは動画コンテンツにさらに力を入れてくることからライブやテレビ番組のような質の高い動画が無料で見れるようになるでしょう。
動画という大きな市場
以上の3つが今後の世界において大きな位置づけを持つビジネスの領域です。当然ながらGoogle、Apple、Amazon、FacebookなどのITどころか世界でも10本の指に入るような企業がここに力を入れてくるでしょうし、それでもこれから生まれるスタートアップが第2のFacebookに成長する可能性はシリコンバレーをはじめとしたIT業界には存在します。
そして、それらはお金のやりとり(お金の電子化およびストレスフリー化)、見つけたいものに手が届く(データベースを用いた情報の個別最適化)、画面を見る娯楽(動画をはじめとするコンテンツ)という言葉を用いて簡単に言い表すことができます。
その中でも最も競争が激しいのが最後のコンテンツという領域ではないでしょうか。GoogleもFacebookもLINEもそれぞれ自分たちのコンテンツを見てもらうために必死です。その時間を増やすために様々な策を講じているわけです。そしてユーザーに長期滞在してもらい、そこに広告を配信するなどして利益を得ようとしています。その滞在時間を増やすために、ユーザーを楽しませるコンテンツとして最も有力なのが動画であるということは言うまでもありません。
動画はなぜ注目されなかったのか
例えば、キュレーションメディアというのはおおよそ3年位前からNAVERまとめという巨人と共に認知されるようになり、様々なスタートアップの中で1つノジャンルとして認識されるようになりました。その結果が今のDeNAにバイアウトを果たしたMERYやiemo、そしてさらにはグノシーを生んでいます。(厳密にはグノシーはキュレーションメディアではありませんが本質的には似た部分があります。)
ところが動画コンテンツというのは意外に注目を浴びることがありませんでした。これからは動画の時代になると語る有識者はいても、こぞって動画コンテンツに手を伸ばす企業はかなり少ないように思えます。VICEという成功例がありますが、特筆すべきはそのくらいでしょうか。それには1つ収益化に苦労するという側面とそのクオリティを維持することが難しいという点があります。YouTubeが長らく収益化に苦労しているように、動画は広告のはさみどころが難しくVICEのような広告コンテンツを配信する形態でないと十分に採算がとれないでしょう。そして、その動画のクオリティが満足のいくものであるためには多額の資金が必要となります。だからこそネットフリックスのような月額制で資金源を担保することによってテレビ局と同等のコンテンツを作れるところでなければ成立しませんでした。
こうした事情も伴い、動画コンテンツは非常にとっつきにくい商売であり、なおかつキュレーションメディアなどの方が計算が立ちやすい事情からそちらに企業が流れていったように思えます。
『LINE LIVE』はテレビの脅威になるのか
今回発表された『LINE LIVE』の最大の競合はテレビ局ということになるでしょう。YouTubeに上がっているような動画はクオリティにおいて多額の資金を投じるテレビ局の番組には到底かないませんし、その時間にしか放送されないという時間のコントロールができないことから冗長したものになります。同様にしてネットフリックスなどの層もまたレンタルビデオなどを見る層と被っており、スキマ時間に見るというよりはガッツリ空いた時間にまとめて見るような形で、映画の層とも近いような違いがあります。
ところが、『LINE LIVE』はテレビで歌番組を見るような層とガッツリ被るわけです。年代を考えたときにドンピシャとは言いませんが、プッシュ通知という機能からもたまたま暇な時間にやっていたら見るかという動機はテレビに近いものがあります。コンテンツを見るユーザーの動機は非常にテレビに近いと言えるでしょう。
『LINE LIVE』の最大のポイントはプッシュ通知
『LINE LIVE』における最大の武器はプッシュ通知でしょう。上記左のような形で、LIVEが始まる際にはお知らせしてくれます。これを、もしあなたがAKB48のメンバーの公式アカウントをLINEで追加していればそのメンバーが出演するLIVEについてはお知らせしてくれるので興味のないLIVEを通知されることはないわけです。
これは実はテレビとの距離感に似ていて、さあ見るぞと番組をセレクトするネットフリックスとは違って、ザッピング(チャンネルを変えながら見たいものを探す)しているような感覚で目に留まるものが出てくればば視聴するという形になるはずです。なんとなくテレビつけてこれがやっていたから、がプッシュ通知で流れてきたからこれ見るかなという風に『LINE LIVE』に流れることが予想されるでしょう。
とはいえ、中高年には当然LINEすら名前しか知らないという層もいるわけで、今すぐテレビが窮地に追いやられるということもなかなかないでしょう。テレビの強みは大きいモニターとそしてそれを操るリモコンに自局のボタンが存在することです。この優位がそう簡単に崩れることがないのは堀江貴文氏があそこまでしてフジテレビを手に入れようとした歴史から読み取れます。ただ、テレビをしのぐコンテンツはいつか必ず出てくることでしょう。